サラの日記475(母は最初、私たちの話を呑み込めないようでした。)

銀菓神暦2016年7月24日

研究室はお休み。
実家に、ルセット先生の……、ミシェル殿下の拠点を移したい旨を話しに行きました。

「そんなことできるの? ここよ? ここ。こんな小さな店を?」
母は最初、私たちの話を呑み込めないようでした。
父は腕を組んで、黙って私たちの様子を見ています。

「お父様、お母様。お願いします。できる限り目立たないように暮らしますし、ここを拠点にさせていただければ、店のことはこれまで以上にお手伝いできます」
ルセット先生は父と母に向かって頭を下げました。

父がゆっくりと口を開きます。
「少し考えさせてくれ。ここは私の城なんだ。母さんと二人で築き上げてきた。……殿下のお申し出でも、すぐに『はい』とは言えません」
「お父さん。何も私たち、ここを乗っ取ろうなんていうのじゃないのよ。置いてもらえたらと……」
私は、なんとか分かってもらおうと言葉を探しました。
「お前が殿下に嫁げば、……いずれは、そういうことだろう」
父は静かに白衣を脱いで、外に出て行きました。