サラの日記470(<……そうだね。浅い傷なら、グラセにも手当てできるだろう……>)

銀菓神暦2016年7月19日

ジャックさんがタツキちゃんを城に呼びました。
ルセット先生と私も、ジャックさんの部屋に呼ばれました。
タツキちゃんは いつになく緊張しているようで、表情が無くなっています。

ジャックさんがタツキちゃんの方を向いて話し始めました。
「俺は、花綵(はなづな)アグルムの王位継承順位第二位に位置する者として、プラクミーヌのゾエ王女と手を組む。つまり、いずれ彼女と家庭を持つ。周りの目もあるから、決めなくちゃならない。王族に仕える者として一緒に来るか、銀菓神使職に就くときだけの仲間でいるか」
タツキちゃんは固まったままジャックさんを見つめています。ジャックさんは続けました。
「いつまでも研究生じゃいられない」
タツキちゃんは固まったまま小さくうなずきました。それから、小さな声で言いました。
「これからのジャックさんに、私は……邪魔?」
ジャックさんはタツキちゃんに優しく微笑みかけます。
「邪魔じゃないよ。大事だから たずねてる。お互いに納得した上で進めたいから たずねてる」
「……私一人なら一緒に行きたい。でも、グラセさんは嫌がるかもしれない。……同級生の、弟の、その下に……」
タツキちゃんは、ハーブティーの入ったカップの中にグラセさんを映し出しました。
「グラセも呼ぼう」
ルセット先生はそう言われると、その場に手刀で鳥居を描き、着装して鳥居の中に入って行かれました。

沈黙のまま三十分ほど過ぎました。
空中に赤い光の鳥居が現れ、ルセット先生とグラセさんが出てこられました。

「僕は構わないよ、タツキちゃん。むしろ、ジャックがそばに居てくれた方が安心だ。月に行ったきりのことがほとんどだからね。こいつの弟なら間違いないだろうし」
グラセさんはルセット先生の肩に手をやりながら、タツキちゃんに微笑まれました。

「でも!」
「ん? どうした? サラ」
ルセット先生は私の方に振り向かれました。
「私は、一緒には行かない方がいいと思うわ。今は良くても、きっと苦しくなる。全てを目の前で……。ね、グラセさん! タツキちゃんを月の配属にはできないんですか?」
考え込んでいるグラセさんに代わって、ジャックさんが言葉を発します。その目は私の方に向けられています。
「あいつに頼めないかな……。ケンジ。あいつ、銀菓神局に居るんだろ?」
「あっ! ……そうね。話してみる」
私はタツキちゃんに視線で同意を求めました。
タツキちゃんは硬い表情のまま、ゆっくり首を縦に振りました。

タツキちゃんは、少しの間、寂しい思いをするのかもしれない。
でも、今、少しの寂しさで済むのなら、その方がいいと思う。
私は、二つ前の時代に……。

ルセット先生が手を繋いでこられました。
<……そうだね。浅い傷なら、グラセにも手当てできるだろう……>