サラの日記357(普段よりも微笑み1.2倍増しで)

銀菓神暦2016年3月28日

ルセット先生はいつもの時間に仕事に来られました。
「何かいいことあった?」
ルセット先生の瞳が私の瞳を覗き込みます。
「ううん。何も……」
「そう?」
ルセット先生はそう言いながら、普段よりも微笑み1.2倍増しで仕事に取り掛かられました。

シュー生地が次々に焼き上がります。
花綵(はなづな)アグルムは今年もお花見の季節を迎えました。
この時期、何故か毎年シュークリームがよく売れるのです。
普段の3倍の量を用意しても、お昼過ぎには完売です。

そう言えばこの2日間、ルセット先生の意識体からの交信はありません。
前は毎日交信してきてくれたのに、ちょっぴり不安です。
近くに居過ぎると寂しいから実家で過ごしてみることにしたはずなのに、本当になんにも構ってもらえなくなるのは不安です。
もしかして、私が居ないのをいいことに、カリンさんに会いに行ってばかりしているんじゃないかなんて、悪いことばかり想像してしまいます。

――それならそれでいいや。ルセット先生と一緒に居ることで背負ってきた色んなものをぜーんぶ手放して、ただこの菓子工房の娘として、ごく平凡にここを継いでいけばいいんだもん。きっと、今よりずっと楽になるんだもん――

強気でいるはずなのに、勝手に涙が出てきます。