サラの日記352(ルセット先生は、カリンさんの涙には気付いても、私の涙には気付いてくれない。)

銀菓神暦2016年3月23日

ルセット先生に言われるままに、西瀬忍を預けました。
ルセット先生は、西瀬忍に何かを付けて磨いていらっしゃいます。
すーっとするような、お香のような、落ち着いた香りが広がります。

「これは何?」
興味津々の私に、ルセット先生はちょっぴりもったいぶりながら答えてくださいます。
「油だよ。オールスパイスの実が漬けてある。良い波動を出すためのおまじない」
「えーっ? 私、いい波動が出せてないってことぉ?」
ちょっとふざけて聞いてみました。
「そうじゃないよ。カリンに……」
ルセット先生の声が小さくなりました。
「カリンさんが、何?」
「……ごめん。カリンに使わせてみる前の実験なんだ……」
ルセット先生は私から視線をはずして、申し訳なさそうにされました。
それから、
「吹いてみて」
と、西瀬忍を私に返されました。

オイルを付ける前と付けた後でどんな違いがあるのか、試してみたい気持ちが半分。
でも、そのオイルがカリンさんのためのものだっていう焼き餅な気持ちが半分。
だけど……、仕方ないか。ルセット先生の頼みなら。
そんなことを思いながら西瀬忍を吹いてみました。

ルセット先生は目を閉じて、西瀬忍から放たれる波動を感じ取っていらっしゃいます。
しばらくすると、大きくうなずいて、
「カリンのところへ行ってくる」
と、研究室の奥の準備室へ入って行かれました。

ルセット先生がみんなに優しいのは知ってる。
特に花綵アグルムの国民には。
でも、カリンさんのことは、花綵アグルムの国民だからって域を越えてるよね?
私の胸の中で、不安と焼き餅が、どんどん大きく膨らみます。

――ルセット先生の ばか! 今になって心配するぐらいなら、カリンさんに、無理矢理にでも、銀菓神使の称号を取らせておけば良かったのよ! 無理矢理にでも、誰かとパートナーを組ませておけば良かったのよ! 特別枠に居るんじゃ、ライバルにもなれない……――

鳥居の中に消えて行ったルセット先生からの交信。
<さっき何か言った?>
<……ううん>

ルセット先生は、カリンさんの涙には気付いても、私の涙には気付いてくれない。