アロゼの休憩室35「食べることに関する緘動の体験談」

私が場面緘黙の真っ只中にいた、小・中学生の頃、
給食が苦手でした。

食べ物の好き嫌いとかの苦手ではなくて、家族以外の人たちと一緒に食事をするという行為そのものが苦手でした。
手の動きがぎこちなくなって、スプーンやフォークを上手く口に運べないのです。
家では普通に使えているのに。
緘動(かんどう)です。

仕方がないので、食器を口元まで持ち上げて、スプーンやフォークから口元までの距離をできるだけ短くすることでごまかしていました。
瓶入りの牛乳も苦手でした。
片手では震えてしまって持ち上げられないんです。
両手で握りしめるようにして飲んでいました。
両手でも震えてしまうことはよくあって、机に肘を付いて固定してごまかしていました。
行儀悪く見えてしまうであろうことが気にはなっていましたが、そうするしか仕方ありませんでした。

だけど、ごまかしていても、小・中学生の頃って、そういうことに敏感&遠慮なく発言しちゃう子が、どのクラスにも1人2人は必ずいて、
私の食べ方がおかしいって話がクラス中に広まることは常でした。
給食時間になると面白半分で覗きに来る子もいました。
もちろん、そういう子たちには、先生が注意はしてくださるのだけど……。

高校生になっても、短大生の頃も、大学生になってからも、
場面緘黙の症状は少しずつ薄れながらも、
やっぱり、家族以外の人と食事をすることは苦手でした。
フォークなら刺してしまえばごまかせますが、
家族以外の人の前で箸やスプーンを使うのは苦手でした。
まあ、高校からはお弁当でしたので、お弁当箱を口元まで持ち上げて食べることで、なんとかごまかせていました。

困るのは、家族以外の人との外食でした。
口元まで手が上がらなかったり、
それを振り切って、思い切って普通に食べようとすると、手が震えて、食器から口までの距離の間に全部こぼれてしまったり、
こぼさないようにゆっくり動かすと、周りの人たちに比べて、食べ進め方が異常に遅くなってしまいます。

数人のグループで会食という時は、あまり食べられないふうを装ってごまかせるのですが、
1対1で食事するとなると、そうもいきません。
相手のペースに合わせれば、私は めちゃめちゃ食べ残しの多い人だと思われるでしょう。
相手が私のペースに合わせてくれる人だったら、私は めちゃめちゃ食べるのが遅い人だと思われるでしょう。
だから、そういう機会がある度に悩みました。
悩んで、それでも、どう思われても、やっぱり一緒に過ごしたいと思う人からのお誘いだけを受けていました。

社会に出て、仕事をして、少しずつ度胸もついてくると、
食事に関する緘動のごまかし方も上手になっていきました。
すると今度は、お嬢さまぶってるとか、かわい子ぶってるとかって思われてしまうことが増えました。
お嬢さまぶってとか、かわい子ぶってそういう格好をしているのではなくて、両手でしっかり支えてでないと食べられなかったから、仕方なくそういう格好になってしまっていただけなのだけど……。
でも、変な子だと思われたままでいるよりは、そういう個性なんだと思われる方がずっといいと思ったし、ずっと楽でした。

主婦になった今では、家族以外の人たちと会食なんて機会は ほぼゼロになり、
今の自分の状態がどうなっているのか、自分でもよく分かりません。
付き合い始めの頃には緘動の症状が出てしまっていた主人の前でも、今は普通に食事することができるので、
いつの間にか治っているのかもしれません。

さ、ここ数回、どうでもいいような内容の『アロゼの休憩室』をお送りしてしまっていたので、
今回は、少しは それらしいことを書かなきゃ……と思って頑張りました。
私には専門的な知識は無く、こうして少しずつ体験談を書くことぐらいしかできませんが、
そうすることで、同じようなことで悩んでいらっしゃる方々が前に進むための、何かの参考になればと思っています。

また、人生の中で一番楽しい時間のひとつであるはずの、10代、20代という時代を、
苦しかったり寂しかったりという思いばかりで過ごしてしまうことがないように、
場面緘黙や緘動の症状が見られる園児や小・中学生のみなさんや、その保護者の方々には、
できるだけ早期に専門医や専門機関などからの支援を受けられることをおすすめします。
当時、場面緘黙についての正しい情報が多くなかったために、
必要だったであろう時に必要な支援を受けることなく、
長い年数を苦しんで過ごしてしまった、失敗経験者の私の願いです。

非営利民間団体の
かんもくネット(http://kanmoku.org/)さんが、場面緘黙についての分かり易いサイトを公開していらっしゃいます。