サラの日記288(お菓子の作業でできた傷じゃない。)

銀菓神暦2016年1月19日

夕方になって気が付きました。
ルセット先生の右手の甲に、深いひっかき傷ができていました。
お菓子を作る作業中に軽く火傷(やけど)を負う(おう)っていうのならよくあることだけど、
ルセット先生ほどの上級菓子職人が手の甲に深いひっかき傷を作るなんて、お菓子の作業でできた傷じゃない。

「これ、どうしたの? 大丈夫?」
って聞いてみたけど、
「地面が凍っているのに気付かなくて転んだんだ」
って、笑ってはぐらかされました。
「手当ては?」
「大丈夫だよ」
ルセット先生は そう言って右手を後ろに隠されましたが、私は無理矢理ルセット先生の手をつかんで、癒しのアロゼを掛けました。
昨日からルセット先生の意識体に掛け続けているものとは別に。

いつの間にかベッドの上でした。
私が起き上がった気配に気付いたルセット先生が机から離れて、私のそばに来てくださいました。

「大丈夫?」
ルセット先生が私の顔に両手を当てて覗き込まれました。
「うん。……私、どうなったの?」
「僕の傷に癒しのアロゼを掛けてくれて……倒れた。多分、力の使い過ぎだよ。他に何かに使った?」
「う……、ううん。ミシェルの傷に使っただけ」
「じゃ、疲れてるだけかな? 今日はもうお休み」
ルセット先生は机の作業に戻られました。

――まだ だめなんだ。私の力じゃ まだ、2つ同時に術を使うことはできない――