サラの日記282(私は、……カリンさんと同じようなことをしている)

銀菓神暦2016年1月13日

ルセット先生との婚約が決まって、住まいを花綵(はなづな)アグルム城に移してからは、実家の工房と大学院に通う以外のプライベートな外出は ほとんどしていません。
特に禁止されているわけではないけれど、なんとなく出掛けにくい雰囲気です。
それに、私の中の半分はルセット先生の意識体。ルセット先生には私の思考や行動の全てを知られてしまう。
もちろん、理屈ではルセット先生もその反対の立場にあるのだから、私にはルセット先生の思考や行動の全てを知ることができはずなのだけど……、私には まだうまくルセット先生の意識体を読むことができません。ルセット先生の意識体は闇の部分が多過ぎる。
大好きだったんだけど、今も大好きなはずなんだけど、今は その裏返しの寂しさの方が大きい。
ルセット先生に知られてしまっても構わない。誰かとどこかへ出掛けたい。
誰かと……。
シュウちゃん。
会いたい。
シュウちゃんに会いたい。
もう、全部壊れても構わない。
ルセット先生と出会う前の、ただの菓子工房の娘だった頃の私に戻りたい。
公務や銀菓神使の仕事で、慣れない人たちと話をしたり一緒に過ごしたりすることは、私には やっぱり重過ぎる。
たくさんの人たちと話せば話すほど、たくさんの人たちと一緒に居れば居るほど、なぜか私は寂しくなる。
話せる人がシュウちゃんだけだった、あの頃の私に戻りたい。
シュウちゃんにさえ話すことができれば、私はそれで安心できたし満足だった。
今は、こんなにたくさんの人たちと話すことができるのに、シュウちゃんには話せない。
せめて、この西瀬忍(にしせしのべ)に想いを乗せて、シュウちゃんに届けばいいと願いながら息を吹き込む。

――これって……。この感覚って……。私は、……カリンさんと同じようなことをしている――

大丈夫。分かってる。
私はもう、花綵アグルムの王太子妃と同じに見られてる。
あれこれ考えることはあっても、そんな風に動いたりはしない。

でも……。

夕食のあと、屋上の鳥居を眺めながらぼんやりしていました。
この鳥居を抜けて、シュウちゃんに会いに行ってみたらどうなるのかな……って。

後ろから、ルセット先生の気配のする温もりに抱きしめられました。
その手が、私の胸のペンダントを そっと つかみました。
「行かないで、サラ。僕はどこにも行っていない。このアグルムの聖石(ひじりいし)に誓う」

――じゃあ、……ミシェルはどこに行っているの?――