サラの日記266(「まあまあ、うちは すっかり お忍び様御用達になっちゃって」)

銀菓神暦2015年12月28日

ルセット先生が帰って来られたのは、昨夜遅くになってからでした。

「ゾエは銀菓神使ルヴィーブルとしてジャックのパートナーになることを承諾してくれたよ。ただし、これはゾエが私的にすることであって、今すぐプラクミーヌと花綵(はなづな)アグルムの国交改善に繋がるわけじゃない」

ゾエさんはジャックさんと話がしたいと言われているらしくて、早速今日、私の実家の工房で待ち合わせることになりました。
さすがに王子やら王女やら その付き人やらが外から丸見えの店内で話をするわけにはいかないので、工房の準備室に集まったのですが、
父は全く気にしていない様子で作業をしていて、
母は、
「まあまあ、うちは すっかり お忍び様御用達になっちゃって」
って、苦笑いしながらお茶を運んでくれていました。

ゾエさんが集まった人たちを見回しながら、
「ルセット先生はどなた?」
と たずねられました。
――あ、ゾエさん、着装していないルセット先生を見るの、初めてなんだ……――
ルセット先生は
「ここだよ」
と、ウィルさんの後ろから出て来られました。
ゾエさんは一瞬はっとした表情をされましたが、続けて聞かれました。
「エルブはどなた?」
ルセット先生の隣りに居たジャックさんが、黙って ゆっくり手を挙げました。

ルセット先生が話し始められました。
「僕らが花綵(はなづな)アグルムの人間だっていうのは昨日話した通り。ゾエに着装を解除した姿を見せたことがなかったのは、今ゾエが見ている通りのことだったから」
すると、ゾエさんは落ち着いたままの様子で話されました。
「なんとなく分かっていました。銀菓神使の養成教育を受け始めて、人の波動を感じ取れるようになってから。ルセット先生。貴方が……ミシェル殿下だということ。エルブ、……ジャックさんのことも」

そのあと、ゾエさんはジャックさんと2人だけで話しをすることを希望され、
私たちは工房をあとにしました。