サラの日記213(窓もドアも締め切ったメランジェ製菓室の中なのに、 心地良いそよ風を感じました。)

銀菓神暦2015年11月5日

午後、ルセット先生が天戸(あまと)キャンパスに出掛けるのを見届けたあと、ほっとしている自分に気付きました。
以前はルセット先生とゾエさんとの関係が気になって不安だったけど、
今は、ゾエさんなら大丈夫だと、ゾエさんを信じている自分に気付きました。

あの、誰だか分からない彼女がどういう人なのかを知りたい……。
――彼女は誰?――
アグルムの聖石(ひじりいし)に問い掛けてみました。

窓もドアも締め切ったメランジェ製菓室の中なのに、
心地良いそよ風を感じました。
不思議だな……って思いながら、目を閉じてそよ風を感じていました。
遠くに、切なくて優しくて温かい、何かの音色が聞こえていました。

メランジェ製菓室のドアがそっと開きました。
「おや? サラさんでしたか……。ちょっと懐かしい人の気配を感じたのでね」
メランジェ先生の声がしました。
「懐かしい人……ですか?」
私は目を開けて、メランジェ先生の方を向きました。
「サラさんたちとは入れ違いで私の研究室を修了した人ですよ。ちょっと不思議な子でね……」
メランジェ先生の目が遠くなりました。
私はそのままメランジェ先生のお話を聞いていました。
「私も なんとなくは気付いていたんですけどね、……まあ、結局、銀菓神使にはならなくてね。今は、小さな島でお菓子ではないものを作ってるらしいんですよ。その子の気配がしたので、ひょっこり遊びにでも来たのかと思ったんですがね。サラさんでしたか……」
メランジェ先生は にっこりしながら何度もうなずかれていました。

構内の植物館の今秋のキキョウの花は9月に終わっています。
だけど見付けてしまいました。
ここには有るはずのない青紫色のキキョウの花が1輪、足元に落ちているのを。
あの彼女と同じ波動を感じて、慌てて拾おうとすると、キキョウの花はすっと姿を消しました。