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サラの日記136(「サラ様。今朝は何を食べさせてくれるの?」)

銀菓神暦2015年8月20日

朝食の支度にキッチンに行ったら、居合わせたウィルさんに、「おはようございます。サラ様」と言われました。
「様はやめて。自分じゃないみたいで変な気分だから」とお願いしたら、
「でも、サラ様は、もう、ミシェル殿下の正式な婚約者でいらっしゃいますから」と困った顔をされました。
「お願い、ウィルさん。私達だけの時は、今まで通りに……」
ウィルさんに向かって手を合わせて、目で『お願い』を訴えました。
「うーん……。かしこまりました、サラ様。では、今まで通りにサラさんと呼ばせて頂きます。私達だけの時は」
ウィルさんは、にっこり笑ってくださいました。

「サラ様。今朝は何を食べさせてくれるの?」
聞き慣れない口調に、聞き慣れた声。
えっ? っと思って振り返ってみると、ルセット先生が、いたずらっ子のように笑って、キッチンの入り口から中の様子を覗いていらっしゃいました。

ウィルさんは、しなくていいと言ってくださっているけれど、洗濯と掃除も済ませてから大学に行くことにしました。
一般の感覚を忘れたくない。
それと、奥さんって感じのことをしてみたい。

大学に着くと、ルセット先生の研究室の前で別れて、私だけメランジェ先生の研究室に向かいました。

メランジェ先生は、
「本当は、私が教えてあげられることは、もう、ほとんど無いんですよ。よくルセット先生の特別講座に付いて来られましたね」
と、大葉のお茶を淹れてくださいました。
「でも、まだ、そんなにたくさん習ったような感じじゃないんですけど……」
それが、今の私の正直な感覚でした。
「いい先生なんですよ、彼は。そして、サラさんにも、それを受け入れられるだけの資質があったってことですかねぇ……」
メランジェ先生は、大葉のお茶を一口飲まれると、話を続けられました。
「1つ教えて1つ受け取ってもらえている感覚なんですよ、ルセット先生は。でも実際には、1つだけ教えたつもりが、2つも3つも、それ以上も教えていらっしゃる。ルセット先生はご自身ではそのことに気付かれていなくて、自分が教えたことだけでは足りないと思っておられるから、私にサラさんを託されるんですよ。サラさんも、1つ教えてもらって1つ知った感覚でいらっしゃる。でも、実際にはそれ以上のことを吸収している。だから、それほどたくさん習ったようには感じないのに、いつの間にか色んなことを学んでいる。……相性のいい人に出会ったんですよ。二人とも。……まあ、そんな予感がしたので、春にサラさんを見掛けた時に声を掛けさせてもらったのですがね……」
「メランジェ先生って、占い師さんみたいですね」
春、ルセット先生のことで悩んでいた頃のこと、メランジェ先生に声を掛けて頂いた頃のことが頭に浮かびました。あの頃は、こんな場所から早く抜け出したいと思っていたけれど、今は必然の出来事だったように感じます。
「あなた方よりも少しだけ長く生きて、少しだけ多く人を見ているだけですよ」
メランジェ先生は大葉のお茶を飲み切ると、おかわりを注がれました。
頭の中だけで、
――じゃあ、メランジェ先生は1000歳以上?――
なんて、ふざけたことを考えながら、大葉のお茶をいただきいました。
大葉のお茶は何度か飲んだことがありますが、何度飲んでも、
口の中いっぱいに広がる大葉の香りが、鼻から優しく抜けて行く、不思議な感覚のお茶です。
頭の中が、表情に出てしまっていたのか、
メランジェ先生が、
「サラさんも面白いことが得意なようですね? ミシェルさんが研究生だった頃の表情にそっくりですよ」
と笑っていらっしゃいました。

「でもまあ、ルセット先生にお願いされている以上は、何もしないわけにもいかないのでね……」
メランジェ先生は、机の引き出しから1冊の本を取り出されました。
「ご婚約のお祝いに」
と、その本を手渡してくださいました。
食用植物の美しいカラー写真と、その効能や使用方法などが詳しく書かれている図鑑でした。
「ありがとうございます。大切に勉強します」
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