サラの日記123(ゆっくり髪に触れられるのを感じました。)

銀菓神暦2015年8月7日

久しぶりに実家の店番に入りました。
工房の方へは時々手伝いに入っていたけれど、お客様と顔を合わせての接客は苦手で……。
だけど、店番をしてみたくなりました。
ルセット先生は、ここを継げるように考えると言ってくださってはいるけれど、
ひょっとしたら、もう数えるほどしか お店に立てないのかもしれないと思うと、
何だか、お店が愛おしく(いとおしく)なりました。

お隣りの、果物屋の樫野(かしの)さん家のおば様が、
「サラちゃん、結婚するの?」って聞いてこられました。
「いえ、あの、まだ正式には決まってないんです……」
「お隣り同士だし、赤ちゃんの頃から知ってるし、うちのシュウにサラちゃんどうかな……なんて思ってたんだけど、手の届かないようなところに行っちゃうのねぇ。でも良かったわ、王家なんでしょ? おばさん、安心だわー。この商店街の自慢だわ。本当に。日取りが決まったら教えてね。お祝いするわ」
「ありがとう、樫野のおば様。でも、まだ本当に内輪だけでのお話なの」
「大丈夫よ。お相手、真面目そうな方じゃない。この辺には似合わない、すごい車が停まったから、おばちゃん、何だろうと思って見てたのよ。あの方なら絶対大丈夫だわ。本当に良かったわ。おめでとう。じゃあ、また来るわね」
樫野のおば様は、ケーク・サレを家族分買って行かれました。
「ありがとうございました。おじ様とシュウちゃんたちにもよろしくね」
「はーい」
樫野さん家のおば様は、後ろ手に小さく手を振って帰って行かれました。

夜、ルセット先生からメッセージが届きました。
<サラ? 今日は何してた?>
<久しぶりに店番に入ったの。お隣りのおば様に『おめでとう』って言われちゃった。ミシェルのことは『真面目そうな方』って言われてた>
<そっかぁ。じゃあ、もう絶対離せないね、サラのこと>
ルセット先生は、ちょっと嬉しそう。
<プラクミーヌのことが、やっぱり不安なの……>
<サラは何も心配しなくても大丈夫。周りに何を言われても、僕がサラを離さなければいいだけのこと。必ずうまくいくから>
<ミシェルのところに行きたい。行ってもいい?>
<おいで>
ルセット先生のところに意識体を飛ばすと、ルセット先生はしっかりと抱き留めてくださいました。

ルセット先生からは、昨日と同じ、柑橘系の果実酒の香りがしました。
<ミシェル、飲んでた?>
<うん。どうして?>
<昨日と同じ香りがする。柑橘系の果実酒の>
<サラ、意識体で匂いも分かるの?>
<うん、分かる。私、この香り、好き>
ルセット先生が、ゆっくり私の髪を撫でて、温かい唇で、ゆっくり髪に触れられるのを感じました。