サラの日記113(平気?)

銀菓神暦2015年7月28日

午前中の2時間を使って、「専門製菓実習」の試験がありました。
課題は目指す称号によって様々で、私の課題は季節のシロップでした。
最近は、意識していない時ほど光の粒が溢れてきてしまうのですが、他の研究生に見られたくないので、なるべく光の粒を出さないように仕込みました。
試験のあと、メランジェ先生が小声でアドバイスしてくださいました。
「できることは、あまり抑え込まなくていいんですよ。抑え込み過ぎると、本当にできなくなってしまうこともありますからね」
その言葉に安心したとたんに、シロップの鍋から光の粒が吹きこぼれました。
メランジェ先生が、採点表に「A´」と記入されるのが見えました。
――やった!――

午後、地下の製菓室に行ってみたら、ルセット先生はいらっしゃらなかったので、明日の科目、「銀菓製菓理論」の勉強をしていました。
1時間ぐらいすると勉強にも飽きてきて、『延し棒横笛』を吹いてみました。
ルセット先生が吹かれていた時のことを思い出すと、心地良い感じに胸の奥が痛くなります。

そろそろ笛にも飽きてきた頃、準備室のドアが開いて、ルセット先生が出て来られました。
「試験中って人が多くってさ、植物館経由の裏庭経由だよ。サラは大丈夫だった?」
「えっ? 私、何にも考えてなかった……」
「サラが称号取るまでは、この仕事クビになりたくないから、協力してね」
ルセット先生は明るくそう言うと、ウインクされました。

そう言えば、いつの間にか、放課後は地下に来るのが当たり前になっていて、学則違反ぎりぎりのことを(時々、違反も)しているっていう意識が薄くなっていました。

「音、少し聞こえたよ。貸して」とルセット先生が『延し棒横笛』に手を伸ばされました。
「サラが吹いたあと、あったかいね」って、笛の全体を確かめるように触ったあと、吹き始められました。

どうしても気になってしょうがなくて、聞いてみることにしました。
「平気?」
「ん?」
ルセット先生は、少し目を大きくして、こちらを見られました。
「私が吹いたあと、平気?」
すると、いつも冷静な雰囲気のルセット先生が、少し恥ずかしそうにして答えてくださいました。
「……僕が吹いたのをサラに渡すのよりも、サラが吹いたのを貸してもらう方が平気」
「私も。……私も、私が吹いたのをルセット先生に渡すのよりも、ルセット先生が吹いたのを渡してもらう方が平気」
「昨日さ、サラが嫌な顔したらどうしようかって心配だった」
「全然嫌じゃないよ。貸して」
ルセット先生の手から『延し棒横笛』を取って、吹いてみました。
ルセット先生に響きを思い出させてもらった笛は、さっきまでよりも滑らかな音がしました。