サラの日記109(ルセット先生は延し棒(のしぼう)を差し出されました。)

銀菓神暦2015年7月24日

放課後、地下の製菓室の扉を開けたら、心地良い音が聞こえてきました。
ルセット先生が大きな木べらを弾いて……
弾いていらっしゃいました。ギターみたいに。
華奢(きゃしゃ)で、すぐに壊れてしまいそうな音。
繊細(せんさい)で、透明な音。
ルセット先生が弾き終わるまで聴いていました。

「弾いてみる?」とルセット先生が『木べらギター』を渡そうとしてくださいました。
「こういうの苦手で、弾けないの……」
ルセット先生が『木べらギター』を持たせてくださって、指も1本ずつ弦の上に置いてくださいました。
弦を弾く(はじく)と、ルセット先生の音には程遠い、ぎこちない音が部屋の中に響きました。

「サラは、お菓子と音楽に共通する力って何だと思う?」
ルセット先生は、また自分で『木べらギター』を弾きながら、そんな質問をされました。
「……癒し?」
「癒しだけ?」
ルセット先生は、穏やかに微笑みながら、私を覗き込まれました。
「んー……」
分かっているつもりでも、改めて聞かれると、答えは中々見付かりませんでした。
「僕は、心を動かす力だと思ってる。お菓子も音楽も、喜・怒・哀・楽の全てを動かせる力を持ってる。その力をうまく引き出すことも、僕ら銀菓神使の仕事だ」
「はい」
「サラもやってみるといいよ。何にする?」
「何に……って、何が?」
「楽器だよ。何にする?」
「えー……っと……」
「こんなのどう?」
ルセット先生は延し棒(のしぼう)を差し出されました。
「延し……棒?」
「うん。延し棒で作った横笛。どう?」
「えーっと……」
「ん、じゃ、決まり。サラは横笛ね」
「あの……。私達、1000年前とか500年前とかにも、こんなことしてた?」
「してないよ。現代の銀菓神使が使うようになった技(わざ)」

夜、ルセット先生からメッセージが届きました。
<サラ。音、出るようになった?>
<そんな急に出ないよ。試験勉強もあるし……>
<了ー解っ。じゃ、おやすみ、サラ>
<おやすみなさい、ミシェル>