サラの日記97(<言って欲しいの?> <言って欲しい>)

銀菓神暦2015年7月12日

何を着て行こうかな……って迷ったりしてみたかったけど、迷うほど持っていませんでした。
結局いつもと同じ格好。
張り切って30分も早く着いてしまって、どうしようかな……って思いながら植物館に向かっていたら、100メートルぐらい先にルセット先生が歩いていらっしゃるのが見えました。
――製菓コートを着ていないルセット先生、「プライベート」って感じがする――

「おはようございます! ルセット先生」
「早いね」
「ルセット先生も早いよ」
そんなやり取りをしていたら、メランジェ先生が来られて……。
「おや? ルセット先生、今日は補習ですか?」って……。
ルセット先生、「いえ、デートです」って、あっさり言っちゃった。
一瞬、メランジェ先生の目が大きくなって止まってた。
ルセット先生は、そのまま堂々と、
「そろそろお話しようと思っていたのですが、サラさんとパートナーの契りを結びました。ジャックには話しています。ほかには伏せています」って。
どうなっちゃうんだろう……って どきどきしていたら、
メランジェ先生は、「良かったですね、ミシェルさん。それから、サラさん」って言って、にっこりして、そのままどこかに行かれてしまいました。
<ね、いいの? 大丈夫なの?>
<大丈夫だよ。メランジェ先生は、正直に話せば大抵のことは分かってくれる。それに、僕らは悪いことをしてるわけじゃない。真面目に、真剣にパートナーの契りを結んだんだ……>

「ねぇ、サラ。今日はデートだからさ、……先生じゃなくて、ミシェルって呼んで欲しい」
「はい……」
「呼んでみて」
「……ミ……えーっ、やっぱり恥ずかしい……」
「聞きたい」
「ん、……じゃあ、……ミシェル」
「サラ」

「どこに行きたい?」
「ミシェルが連れてってくれるところに」

ルセット先生は、四次元時空間の草原に連れて行ってくださいました。
手を繋いで、たくさん歩きました。

たくさん話もしました。
ルセット先生のご実家はアグルムの王族で、花綵(はなづな)領を治めていて、その城は花綵アグルム城と呼ばれているということを聞いたり、
私の実家は代々続く菓子職人の家系だということを話したりしました。

今日のルセット先生からは、お菓子の匂いはしなかった。いつもはお菓子の匂いに隠れているシャンプーの香りと、肌の匂いと……。

帰り際にルセット先生が言われたこと。
「僕たちが、おじいちゃんと おばあちゃんになって、その時が来るまで、一緒にいようね」
表面だけ聞くと、プロポーズのような言葉。だけど、1000年前と500年前の2回も、想い半ばで命の光を失わなければならなかった記憶を持っているルセット先生には、本当に、純粋に、ただ一つの願いなんだろうな……。

夜、今日もルセット先生からメッセージが届きました。
<おやすみ、サラ>
<おやすみなさい、ルセット先生>
<今のはプライベートだよ>
<言って欲しいの?>
<言って欲しい>
<おやすみなさい、ミシェル>