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サラの日記94(……読み終わるまで……そばにいて)

銀菓神暦2015年7月9日

放課後、地下の製菓室の前で、扉を開けるのをためらっていたら、ルセット先生の声が届きました。
<あの本、読んだ?>
<怖くて読めない……>
<ゆっくりでいいよ>
ルセット先生が扉を開けて、迎え入れてくださいました。

ルセット先生の顔を見た途端、頑張って押し込んでいた不安が、涙になって一気に流れ出しました。
「ごめんなさい……。いっぱい……出てきちゃう……。止められない……」
ルセット先生は、私が落ち着くまで抱き留めてくださっていました。

「……継承者……なの?」
「継ぎたくない……」
「……」
「サラがアロゼの称号を取ったら……」
「……」
「二人で逃げよう……」
「二人……で?」
「うん。一緒に……」
「……今、……今読むから、……読み終わるまで……そばにいて」
「分かった……」

『銀菓神伝説』は二つの章で構成されていました。

一つは今から約1000年前の話。
ある国の王太子と、その城に仕えている菓子職人の娘は、互いに想い合う仲だったが、
王太子には決められた相手がいた。
王太子は王に菓子職人の娘との結婚を認めてもらえるよう懇願したが、
願いは通らず、菓子職人の娘は暗殺されてしまった。
そのことを知った王太子は、菓子職人の娘の後を追って自ら命を絶った。

もう一つは、一つ目の話から約500年後の話。
身分の差の無い世界で生まれ変わることを願った二人は、銀菓神界に転生した。
女は光の銀菓神に、男は闇の銀菓神となった。
二人は離れてはならなかった。どちらか一方では存在できなかった。
しかし、闇の銀菓神の力に ただならぬ恐怖心を抱いた(いだいた)光の銀菓神の家臣は、闇の銀菓神を討ってしまった。
同時に光の銀菓神も消滅し、銀菓神界は無となった。
それから約200年後、銀菓神は光と闇には分かたれぬものとなり、新たな銀菓神界が誕生した。

私が読み終わったのを見計らって、ルセット先生は静かに口を開かれました。
「討たれた矢に、『永遠(とわ)の記憶の呪縛』が掛けられていた……。……覚えてるんだ……何もかも……。……生まれる場所が変わっても、……その姿が変わっても、……その名前が変わっても、……僕がいつも大切に想っていた人は……、……君なんだ、サラ」
「……」
「新しい銀菓神界で、僕は『永遠の記憶の呪縛』に導かれ、王族に生まれた。年が明けたら……、婚約と王位継承の話が動く。だから……その前に、僕と一緒に逃げて欲しい。……もう、身分の違いだとか何だとかで、サラを失いたくない……」
「……私、……覚えてるよ」
「えっ!?」
「子供の頃……、何度も同じ夢を見た。お城の……。誰かに会いに行くんだけど、……いつも会えなかった。……ただの夢だと思ってた。……あれ、ルセット先生だったんだ……。私達は光と闇の一対の銀菓神だったから……、私にも少し……『永遠の記憶の呪縛』の影響があったのかな……」
「じゃあ!」
「でも! できない。一緒には逃げられない……」
「……」
「戻って……。ちゃんと継いで。……お願い」
「嫌だ……」
「自分のことばかり押し付けないで! 今をちゃんと見て! 私を……悪者にしないで……。 お願い……」
「……嫌だ……」
「一緒になれなくても……、ずっとそばにいるから……。ずっと……信じてるから……」
「……嫌……だ……」
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