サラの日記694(「本当においでなさいよ。敷居が高くなってしまわないうちに」)

銀菓神暦2017年2月28日

銀菓神局附属大学 花綵(はなづな)キャンパス 大学院の研究生でいられるのも、あと三週間足らずになりました。
メランジェ研究室とメランジェ製菓室の片付けや掃除を始めました。

メランジェ先生がお茶を入れてくださいました。
「サラさんには、最初の希望を変更という形で私がここに連れてきてしまいましたが、私の研究室で……良かったですか?」
「はい、メランジェ先生。メランジェ先生の研究室で良かったです」
「そうですか……。それなら良かった……。では、どう良かったですか?」
「あ、え、あの……ごめんなさい。分かりません、……今は。でも、良かったはずです。……もう一つの居場所があるというのは、私には大事なことでした」
「そうですか。ではまた おいでなさい。もう一つの居場所が必要になったときには、いつでも」
「……はい」
「本当においでなさいよ。敷居が高くなってしまわないうちに」
「はい」
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サラの日記693(遅刻の言い訳はできないなぁ……。)

銀菓神暦2017年2月27日

菓子工房ミヤマエの地下に引っ越して初めての朝。
すぐに仕事に取り掛かれるので便利です。
でも、遅刻の言い訳はできなくなっちゃったなぁ……。

ルセット先生が言われました。
「カリンやシュウ君に、時々城の部屋を使ってもらおうと思ってる」
「城の?」
「うん。対外的に、僕らが城にいないとは思われない方がいいし、この場所は知られない方がいい」
「そうね」

サラの日記692(これで十分です。この方がいいんです。)

銀菓神暦2017年2月26日

今日は、全ての工事が終了した、菓子工房ミヤマエの地下部屋への引っ越しでした。
元々狭いところに家具などを運び込んだら、ますます狭い部屋になりました。
でも、これで十分です。この方がいいんです。
ルセット先生が火星勤務に出てしまったら、広過ぎる部屋では寂しさがつのります。
ルセット先生は笑いながらこんなことを言われます。
「きっとあれこれ考えている暇は無いよ。新しい仕事が始まるし、子どもの世話にも追われる。あっという間に僕の火星勤務は終わる.。で、サラは言うんだ。『あれ? もう帰ってきちゃったの?』って。で、僕はおじゃま虫になるんだ」
「もう、ミシェルったら……。そのたくましい想像力をちゃんと火星で活かしてくるのよ?」
私もつられて笑っちゃいました。
でも、笑っているのに涙が出てきます。

サラの日記691(すっかり慣れっこですが、)

銀菓神暦2017年2月25日

口元部分だけの特殊着装にはすっかり慣れっこですが、
お腹周りの特殊着装というのは初体験です。
ルセット先生が熱心に教えてくださいますが、なかなかうまくできません。
でも、なぜだか、ルセット先生は嬉しそうです。
「すぐに僕の出番が無くなってしまうのは寂しいからね」
そんなことを言いながら、にこにこしていらっしゃいます。
練習場所は、久しぶりの地下製菓室の奥の準備室です。
一年生の頃からの、色んな思い出が詰まった場所。
来年度からルセット先生は火星勤務だし、私は学部の建物にしか行かなくなる。
またここで、次の人たちの、新しい物語が始まるのかもしれない。
寂しいけど、何かがうまれ続けるんだろうな……という、きらきらしたものが詰まっているところ。

アロゼの休憩室69「ルセット先生流のサラちゃんの守り方」

ルセット先生とサラちゃんの間に新しい命が芽生えたようです。
多分これがルセット先生流のサラちゃんの守り方なのでしょう。
それぞれの旅立ちまであと一か月余りとなりました。
『…~アロゼ誕生前の物語~…』では旅立ちの前までのお話となりますが、
機会を作って、旅立ちのその後の描いてみたいなと思っています。

サラの日記690(僕が居る間に教える)

銀菓神暦2017年2月24日

来週から学部の講師の仕事の研修が始まります。
それなりの服装の用意が必要だろうってことで、ミヤマエの仕事のあと、マリーさんが採寸してくださいました。
見ていたルセット先生がマリーさんに注文されます。
「できるだけゆったり目で頼むよ。緊張してもしっかり息が吸えるようにね」
「かしこまりました、殿下」
マリーさんの採寸の手が少し緩みました。

ルセット先生からの交信です。
<これで、ぎりぎりまで黙っておけるだろ?>
<うん。……でも、銀菓神使スーツは?>
<あぁ、あれは大丈夫だよ。特殊着装すればね>
<特殊着装? お腹の? >
<そうだよ。大丈夫。僕が居る間に教える>

サラの日記689(寂しいことに変わりはありませんが、)

銀菓神暦2017年2月23日

何も書かれていない便箋の予告通り、今朝、ルセット先生は帰ってこられました。
便箋を手に、「これどうなってるの? どうやったらこうなるの?」とルセット先生に駆け寄ると、
ルセット先生は「気付いてくれたんだね」とにっこりされました。
ルセット先生は私の質問には答えられませんでしたが、私も、答えて欲しいと思って投げ掛けた質問ではありませんでした。

モンテ学長から、来年度からの仕事に向けての研修の案内書を受け取りました。
一度自分でよく読んだあと、ルセット先生と一緒にもう一度読みました。
あれこれおしゃべりしながら。

寂しいことに変わりはありませんが、もう、ルセット先生を追いかけて火星に行こうだなんて思ってはいません。
私は、ルセット先生のために強くなる。

サラの日記688(研究室にも行ってみましたが)

銀菓神暦2017年2月22日

朝、目が覚めたら、部屋にルセット先生はいらっしゃいませんでした。
先にミヤマエの仕事に出掛けたのかなって、ミヤマエを覗きに行ってみましたが、やはり姿はありませんでした。
研究室にも行ってみましたが、今日はルセット先生に出勤の予定が無いことが分かりました。

なんとなく、もう一度城に戻ってみようかなっていう気持ちになって、城の自室に帰ってみました。

ふと、ルセット先生の机の上に目が留まりました。
何も書かれていない便箋が置かれています。
手を触れると、温かさと同時に、ルセット先生からのメッセージが伝わってきました。
――火星勤務の研修だよ。明日の朝には戻る――

サラの日記687(……彼女も難しいんだよ。色々)

銀菓神暦2017年2月21日

ルセット先生と一緒に、王と王妃のところへ報告に行きました。
結婚の儀の準備に向けた話が、一気に進み始めました。
でもまだ、私達四人以外には箝口令(かんこうれい)が敷かれています。
城で仕事をしている人たちにはもちろん、ジャックさんにも。
ジャックさんが、プラクミーヌの王女であるゾエさんと繋がっているからです。

ルセット先生に訊きたいことがありました。
「私ね、まだ全然自覚がないの。ただ変なことがよく起こるようになったなってぐらいで……。なのに、ミシェルにはどうして分かったの?」
「めちゃめちゃ自己主張の激しい子なんだ。まず初めに、アグルムの聖石の色を変えた。それから……、カリンを跳ねのけた。それから、サラが取り入れようとするものを横から拝借する。まだ、命の芽でしかないのに、自分は銀菓神使の、ネージュの力を持っていると見せつける。それから……。それから、とうとう僕の夢に現れた。幼い女の子の姿で。『私が、お父さんとお母さんの絆になる』なんて、偉そうなことを伝えてきた」
「……私には何もないわ」
「今の彼女は、サラとひとつであって ひとつではないから。銀菓神使の力は自分のためには使えない。……彼女も難しいんだよ。色々」

サラの日記686(銀菓宝果の木々が発する力を、ぐんぐん吸い取ろうとしているような重みです。)

銀菓神暦2017年2月20日

銀菓宝果の光は、私を優しく包み込んでくれます。
銀菓宝果の木々は、私を頼りにしてくれています。
――アロゼ。どこにも行かないで。私たちと一緒にここに――
銀菓宝果の木々から、そんなことが伝わってきます。
「私は銀菓神使アロゼ。どこにいても、どこからでも、あなた達に会いに来ることができるわ」
――火星からでは遠過ぎる――
「大丈夫。どこからでも、必ず……」
――アロゼ。あなたが大丈夫でも、ネージュの力持つ者が、まだ余りにも幼い――
「ネージュ? ルセット先生からも聞きました。ネージュの力を持つ者。一体誰なんですか? その人は、どうして私の邪魔をするの?」
――邪魔をしているわけではありません。まだ、とても幼くて、あなたの保護が必要なだけです――

なんだか訳の分からないことばかり言われて混乱していると、今度は胸のペンダント、アグルムの聖石が光り出しました。
――ミシェル殿下はあなたに伝えたいと思っていらっしゃいます。けれど、確実になるまでは言えないのです。あなたと、ネージュの力を持つ者とを守るためなのです――

お腹の辺りに、小さな重みを感じました。
銀菓宝果の木々が発する力を、ぐんぐん吸い取ろうとしているような重みです。
はっとして、銀菓宝果の保管庫を出ました。
ルセット先生が待っていらっしゃいました。
ルセット先生は私のお腹に手を当てて、こう言われました。
「地球に残って、彼女を育てて欲しい。先天的に、銀菓神使ネージュの可能性を持っている子だ。アグルムの後継者になる可能性も。……サラがそうして待っていてくれれば、僕は、何があっても地球に帰って来ようと頑張れる。僕の、居場所を作って待っていて」

サラの日記685(私ではない何かと共存しているような感覚。)

銀菓神暦2017年2月19日

昨日、銀菓宝果のシャーベットを食べて具合が悪くなって以来、
私の中の、私でもルセット先生でもないもう一つの力が、どんどん育ってきているような、不思議な感覚に包まれています。
私なのに、私ではない何かと共存しているような感覚。

勝手にそうしてしまいたい気持ちを抑えて、ルセット先生に相談してみることにしました。
「食べるのはだめだけど、見に行くだけなら大丈夫でしょう? 銀菓宝果……」
「ん……。見に行ってどうする?」
「どうして食べるとだめなのかを見付けに行くの」
ルセット先生は、条件付きで許可してくださいました。
「僕と、ずっと意識体を繋げておくこと」
「うん!」

サラの日記684(「だから食べ物には気を付けろと言っただろ?」)

銀菓神暦2017年2月18日

ルセット先生が何も言われなくなったので、銀菓宝果を使ってシャーベットを作りました。
一口食べて、身体中の力がお腹の辺りに集まって行くような感覚がして、
気が付いたら城の自室のベッドの上でした。
ぼんやりとルセット先生の顔が見え、こう言われるのが聞こえました。
「だから食べ物には気を付けろと言っただろ?」
その声は、冷たくもなく、とがってもいませんでした。
ただ、私を心配してくださっていることだけが伝わってきました。
尋ねました。
「私、どうなったの?」
「……今のサラにはバランスの良くない食べ方だったんだよ」

サラの日記683(ルセット先生が、机に頬杖を付いたままです。)

銀菓神暦2017年2月17日

叱られました。ルセット先生に。
銀菓宝果を使ってシャーベットを作ろうとしていることがばれてしまったんです。
それと、チョコレート・アイスクリームを、ルセット先生には内緒で食べちゃってたことも。

ルセット先生の言い分はこうです。
「サラを守るため」
でも、私はこう思っちゃいます。
「『サラを守るため』と思いたい、お偉いミシェル・オーギュスタン・ダグルム=フェストン王太子殿下のためでしょ? ふんっ!」

ルセット先生が、机に頬杖を付いたままです。
今日中に仕上げるんだと言っていた書類が真っ白なままです。

サラの日記682(「こっちに出てきて食べなさい!」)

銀菓神暦2017年2月16日

こんな季節なのに冷たいものが食べたくなって、ミヤマエの冷凍庫のチョコレート・アイスクリームをこっそり拝借。
「なにやってるんだ!」と父の声。
びくっとなっているところへ再び父の声。
「こっちに出てきて食べなさい!」
「はい……」

我ながらおいしい。
寒いけどおいしい。
でも、チョコレート・アイスクリームよりもレモン・シャーベットの方が今の気分にぴったりな気がする。
あ! 銀菓宝果のシャーベットなんておいしいんじゃないかな?
よおっし! 作っちゃおう!

サラの日記681(このバランスの取り方は、銀菓神使ではない菓子職人の方が得意なのかもしれない。)

銀菓神暦2017年2月15日

四次元時空間のお菓子業界で、バレンタインデーのあと、息つく暇もなく待ち受けているもの。
ホワイトデー。
なにも、五次元時空間の私たちまで四次元時空間のお菓子業界の真似をしなくてもいいんじゃないかと思うんだけど、
最近の五次元時空間では、四次元時空間の人々のそういう商売のやり方を、なぜか真似したくなるというのが時代の流れらしい。
というわけで、菓子工房ミヤマエでも、本日よりホワイトデー商品の仕込みを開始。

でも、私個人としては、これは違うと思っている。
菓子というものは、ちょっぴり敷居が高くて、もう少し尊いものではなかったっけ。
こんな風に、お祭り騒ぎのどさくさに紛れた感じで売っちゃっていいの?

職人が思うことと、お客様から求められることと、商売として成り立たせること。
このバランスの取り方は、銀菓神使ではない菓子職人の方が得意なのかもしれない。
その証拠に、銀菓神使ではない菓子職人である私の父と母は、こうしてお店が賑わうことを上手に楽しんでいる。

アロゼの休憩室68「楽しいこと工房の未来予想図」

2014年6月に「宇宙製菓学研究室」として始まった現在の「楽しいこと工房」。
色んな壁にぶつかって、それでも何とか続けてみようとした上での形です。
でも、やっぱりお菓子を続けたかったっていう気持ちはいつもどこかに転がっていて、
なんだか悶々としていました。

お菓子屋さん始めます!
今すぐではないけれど。
で、「楽しいこと工房」を、そのお菓子屋さんの出版部に位置づけようと計画しています。

実現できるかもしれないし、できないかもしれない。
でも、「実現したい!」という方向に向かって歩いてみようと思います。

お菓子屋さんと言っても色々あるわけですが、
まあ、今ここで発言してしまうと色々問題が起こりそうなので、その辺りはぼんやりさせますが、
一点集中型で考えています。

真っ直ぐお菓子屋さんにはなれなくて、
その時々の状況に応じて形を変えての活動になるかもしれませんが、
最終目的地は一点集中型のお菓子屋さんです。

サラの日記680(そうするしかできなくて大量に作ってしまったチョコレート・アイスクリームを)

銀菓神暦2017年2月14日

バレンタインデー当日。
当日はそれほどでもないんだろうと油断していたら、意外に多くのお客様が菓子工房ミヤマエを訪れてくださいました。
なんと、そうするしかできなくて大量に作ってしまったチョコレート・アイスクリームを食べに。
父は、そんな状況を認めてしまうのが悔しいらしくて、店舗の方をちらりと覗いては、認めたくないとばかりに、うなだれた首を何度も横に振っています。そして、その度に小さなため息をひとつ。

子供の頃の私なら、両手をあげて喜んだことでしょう。
でも、銀菓神使という立場に立った今、無条件に喜ぶことはできませんでした。
新しくなっていくことへの希望と、伝統を崩してしまうことへの罪悪感のような危機感のようなもの。

急遽、残りのチョコレート・アイスクリームをホットチョコレートに加工することにしました。
できます。今の私には。ネージュの力をアロゼの力で包み込む。
そっと。小さな子どもを大切に抱く(いだく)母のように。

新しいものは楽しい。
でも、古(いにしえ)を忘れてしまっては新しいものは生まれない。

サラの日記679(ルセット先生の作戦は大成功でした。)

銀菓神暦2017年2月13日

チョコレート菓子の売り上げは昨日がピークで、今日からはそうでもないと思っていたのですが、
昼間の菓子工房ミヤマエはとっても忙しくて、今日もチョコレート菓子製造の手伝いに行ってきました。

さすがにずっとチョコレート・アイスクリームを作り続けるわけにもいかないなぁ……と思っていたら、
それを知ってか知らずか、ルセット先生が工房の端で手招きされました。

「試して欲しいことがあるんだ」
「何?」
「材料が凍りそうになったら、そこに癒しのアロゼを掛けるんだ。うまくいけば、それでネージュの力を包み込める」
「……うん」

ルセット先生の作戦は大成功でした。
これなら、氷菓専門の銀菓神使にならなくても済みそうです。

サラの日記678(おいしさと健康効果の絶妙なバランス)

銀菓神暦2017年2月12日

予想通り、今日の菓子工房ミヤマエはたくさんのお客様でごった返していました。
昨日私が大量に仕込むことになってしまったチョコレート・アイスクリームも、
暖房がよく効いた店内で召し上がっていただく商品として、まずまずの売り上げとなりました。

ここ数年、消費者のチョコレートの健康効果への関心が高まり、高カカオの商品がよく売れるようになりましたが、
低いカカオの商品が売れなくなったかというとそうでもありません。
高カカオのものの方が健康効果が高いとは言っても、やっぱりチョコレートは嗜好品です。
30%から40%ぐらいのものの方が食べ易くておいしいとお買い求めいただくお客様もたくさんいらっしゃいます。

おいしさと健康効果の絶妙なバランスをつくり上げることも、銀菓神使の大切な役割です。
そして、その原料となるものが生き生きと育つことのできる自然環境を守っていくことも、銀菓神使の大切な役割です。

サラの日記677(寒い季節にこってりした味わいのアイスクリームを)

銀菓神暦2017年2月11日

今日の菓子工房ミヤマエは、おそらく明日が売り上げのピークだろうと思われるチョコレート菓子の製造で忙しく過ぎました。
出なければいけない講義も無かったので、一日中ミヤマエに居ました。

で、私はチョコレート・アイスクリームを作っていました。
父や母は「こんな寒い時に……」とあまり気のりしていない様子でしたが、
チョコレート・アイスクリーム作りは、今の私にもってこいの仕事でした。
ルセット先生も、「最近は寒い季節にこってりした味わいのアイスクリームを楽しむことも流行り(はやり)なんですよ」と、両親に話してくださっていました。
両親は、「まあ、先生がそう言うなら……」って雰囲気でした。

仕込みは済みました。
あとは、チョコレート・アイスクリームが本当に売れてくれれば万々歳です。

サラの日記676(早朝、窓の外を見てびっくりしました。)

銀菓神暦2017年2月10日

早朝、窓の外を見てびっくりしました。
中庭に、雪がうっすらと積もっています。
後ろで、ルセット先生の笑い声が聞こえました。
「これは自然現象。サラじゃないよ」
「よかったぁ……。私がやっちゃったのかと思った……」
私がそう言ったのを聞いて、ルセット先生はさっきよりも大きな声で笑われました。

お昼頃になって、朝の雪の気配が消えた頃、今度は細かな雪がちらつき始めました。
手のひらで受け止めてみました。
特に変化はありません。

変化が……ない?
溶けない?
これは、自然現象ではない?

サラの日記675(要らないことは話さなくていい)

銀菓神暦2017年2月9日

朝食も、
菓子工房ミヤマエでの仕事のあとに、ちょっとお茶にしたいなって思った時も、
お昼のお弁当も、
昼下がりのお茶も、
夕食も、
そのあとのお茶の時も、
私や周りの人が手を出す間もないほどの絶妙なタイミングで、ウィルさんが用意してくださいます。
どうなっちゃってるんだろうと思いながらウィルさんの顔を見ていたら、
「ミシェル殿下のご命令です。サラさんが口にするものは全て私が用意するようにと」
と話してくださいました。
すると、それを聞いていたルセット先生が、
「ウィル。要らないことは話さなくていい」
と低い声で早口に言われました。
でも、目の前でそんなのを聞いてしまったら、とっても気になります。
「あの……。ミシェル……。要らないことって……」
「いいか、サラ。何も訊かずに、口にするものはウィルが用意したものだけにしろ」
そう言われるルセット先生の波動は、とがっているのに温かでした。

サラの日記674(「ん? ちょっと雰囲気変った?」)

銀菓神暦2017年2月8日

カリンさんに会いに行きました。
カリンさんは顔を合わせるなり、「ん? ちょっと雰囲気変った?」と言われました。
「え、あ、いえ……。そうですか?」
返事に困りながら頭に浮かんだのは、ここ数日間のおかしな出来事です。
チョコレートソースが氷柱になってしまったり、雨が雪になってしまったり……。

今日は、今日こそは、カリンさんに私の意識体の一部を受け取ってもらうつもりで会いに行きました。
カリンさんも、諦めない私に渋々応じてくださることになりました。

私の意識体の一部を受け取ってくださったカリンさんは、ゆっくり目を閉じて、ゆっくり目を開けて、ゆっくり口を開かれました。
「サラさん。貴女、一人じゃないわ……」
「はい! ありがとうございます! これから、よろしくお願いします」
私はカリンさんが私の意識体の一部を受け取ってくださったことが嬉しくて、これでルセット先生が火星に派遣されても、地球圏でのことはカリンさんにお願いしてルセット先生に付いて行けると思って、カリンさんに深いお辞儀をしました。
ところが、カリンさんはこう言われました。
「ん、そうじゃなくて……」
「あっ……。ルセット先生の意識体も送ってしまいましたか?」
「ん、そうじゃなくて……。……そうね。ルセット先生のが少し混ざってしまってるのかも……」
「嫌ですか?」
心配になって、カリンさんの顔を覗き込みました。
「ううん。大丈夫」
カリンさんはにっこりしてくださいました。

サラの日記673(雨は雪へと姿を変えました。)

銀菓神暦2017年2月7日

朝方、雨がぱらついていました。
私の手が雨に触れると、雨は雪へと姿を変えました。
結晶のその形がくっきりと見えるほど、しっかりとした雪です。

そのことに、ルセット先生が気付かれました。
「ネージュの力を持ってるのか……」
ルセット先生は私の手のひらで雨が雪へと変わっていくその様子を眺めながら、そんなことをつぶやかれました。
「ねえミシェル。ネージュの力って……何?」
「……え? あ、うん……。今、サラの手のひらで起こってること」
「これがネージュの力? 私、やっぱり氷菓しか作れない銀菓神使になっちゃうの?」
するとルセット先生はくすっと笑われました。
「違うよ。これは、今はサラの手のひらで起こっていることだけど、サラの力じゃない。サラは今まで通りのアロゼだよ」
「どういうこと? ちゃんと教えて」
でも、ルセット先生はなんだかんだと私の質問をはぐらかして、それ以上のことは教えてくださいませんでした。

サラの日記672(「困ったな……。かなり やんちゃだな……」)

銀菓神暦2017年2月6日

私が触れると凍るものは、チョコレートソースだけではなく、熱い鍋の中のシロップにまで広がりました。
ブルーム現象とたたかったり、シャリとたたかったりしています。
私が困る度に、ルセット先生は私の中に、温度のコントロールを可能にするための波動を送り込んでくださいます。

ルセット先生が独り言のようにつぶやかれました。
「困ったな……。かなり やんちゃだな……」
「うん……」
思わず私が応じると、ルセット先生は、はっとした表情で「気付いてるの?」と訊かれました。
「うん。私の新しい力。やんちゃなんでしょう?」
私がそう言うと、ルセット先生の表情が少しやわらぎました。
表情はやわらぎましたが、言葉に詰まっていらっしゃいました。
私はルセット先生が何か話されるのを待っていましたが、ルセット先生は何も話されませんでした。

「ねえ、ミシェル。私、アロゼの称号は返還した方がいいのかな……。グラセさんなんかの弟子になった方がいいのかな……」
すると、ルセット先生は少し慌てた様子で、「昨日も言っただろ? これはサラのせいじゃないんだ。そのうち静かになるよ」と言われました。
「じゃあ、どうしてこんなことになってるの?」
ルセット先生は、そんな私の質問には答えず、「サラ。ハーブには気を付けろ。あまり変わったものを口にするな。ジャックや近しい者の処方でもだ」と言い残してメランジェ製菓室を出て行かれました。

ルセット先生と入れ替わるかのようにジャックさんがメランジェ製菓室に入ってきました。

サラの日記671(穏やかなのと尖った(とがった)のがごちゃごちゃに)

銀菓神暦2017年2月5日

朝、ミヤマエに行く支度をするためベッドを出ようとしたら、ルセット先生が手を繋いでこられました。
穏やかなのと尖った(とがった)のがごちゃごちゃになっているような、なんとも言えない感覚が伝わってきます。
ルセット先生が交信で話し掛けてこられます。
<もう少しだけ一緒に……>
<でも、先週も……>
<大丈夫。今日は……もう少しだけ。あと三十秒だけ……>
<うん……>
繋いだ手を伝って、ルセット先生のごちゃごちゃな意識体の流れが私の中にも流れていきます。

今日も、私が触れたチョコレートソースはチョコレートの氷柱(つらら)になってしまいました。

お昼休憩の時、地下室でルセット先生が言われました。
「三十秒じゃ足りなかったかな……」
それから、ルセット先生の両腕にがっちりと固定されて、ルセット先生の唇が私の唇を覆いました。
息が苦しくなる位長い長い間。

私が触れたチョコレートソースは相変わらずチョコレート氷柱になってしまいますが、
その氷柱を、自分の意思でチョコレートソースに戻すことができるようになりました。

「ミシェル。あれ、どうなってるの?」
「氷柱になってしまうのは……多分、サラのせいじゃないんだ」

アロゼの休憩室67「桜はらはら(予告)」

さて、ここまで『銀菓神使アロゼ~アロゼ誕生前の物語~サラの日記』にお付き合いいただいた皆様にはそろそろお分かりのことだと思いますが、
これまでサラちゃんの目には穏やかに穏やかに映っていたルセット先生は、
実はかなり激しい気性の持ち主だったのです。
でも、ただわがままに激しいわけではありません。
全てはサラちゃんを護るために。
今後の『銀菓神使アロゼ~アロゼ誕生前の物語~サラの日記』もどうぞお楽しみに(^^)/

そして、
桜の季節前にはYouTubeで公開予定の横笛の新曲、「桜はらはら」。
興味のある方はこちらの応援もよろしくお願いしま~す!(^^)!


sakuraharahara

サラの日記670(節分の売り出しが終わったらやって来るもの。)

銀菓神暦2017年2月4日

実家の菓子工房ミヤマエ。
節分の売り出しが終わったらやって来るもの。
バレンタインデー。
そう。今日からはチョコレートまみれの十日間。
だけど、不思議なことが起こっています。
私が触れると、チョコレートがみるみる凍ってしまう。
凍らせたいものが凍るのなら問題無いのだけど、凍らせるつもりのないものまで凍ってしまう。
チョコレートソースがチョコレートの氷柱(つらら)になってしまう。
ルセット先生はそんな私の困った様子に気付くと、
「いいよ。これは僕がやる」
と代わってくださいました。
チョコレートは凍っちゃうんだけど、今日のルセット先生は穏やかで優しかった。

でも、ずっとこのままだったらどうしよう。
私、氷菓しか作れない銀菓神使になってしまうの?

サラの日記669(豆菓子が飛ぶように売れています。)

銀菓神暦2017年2月3日

節分です。
実家の菓子工房ミヤマエでは、豆菓子が飛ぶように売れています。
まあ、一応お菓子屋さんなので、煎った大豆に黒糖やその他の砂糖で衣を付けたものを中心に扱っていますが、私個人としては煎っただけの大豆が好みです。
で、糖衣を付ける前の煎り大豆をつまみ食いしていたら、ルセット先生に工房からつまみ出されました。
「工房でそんなことするんじゃない! ここは衛生的で神聖な場所でなくちゃならないんだぞ! それに、そんなに食べたら商品が減るじゃないか!」
って笑っていらっしゃいました。
冷たさや鋭さは感じません。
私の大好きな、穏やかなルセット先生です。

私の両親の手前、そうしているだけなの?
それとも、今日のルセット先生を信じてもいいの?

サラの日記668(何かがそれを阻んで(はばんで)いるのです。)

銀菓神暦2017年2月2日

カリンさんに私の後を託すための最後の壁を乗り越えるつもりでカリンさんに会いに行きました。
最後の壁。
カリンさんに、私の意識体の一部を受け入れてもらうこと。
カリンさんは、その考えを受け入れてくださいました。
でも……。
何かがそれを阻んで(はばんで)いるのです。

カリンさんは私の胸元を指差されました。
アグルムの聖石が、今までに見たことの無い、もやもやとした七色の光を発しています。
カリンさんはその光を見詰めたまま、少し淋しそうに微笑んでこう言われました。
「私じゃだめだと言ってるみたい。サラさん。貴女にしかできないのよ、この役目は。私がお手伝いできるのは、それ以外のこと。それ以外のことなら、いつでも……」

サラの日記667(自分の中に、確かに存在することは分かっているのに。)

銀菓神暦2017年2月1日

自分の意思とは関係なく発動してしまう「嵐のアロゼ」を治めるための鍵が、
自分の意思とは関係なく発動してしまう「包容のアロゼ」にあることはなんとなく分かっています。
でも、「嵐のアロゼ」も「包容のアロゼ」も、自分の意思とは関係なく発動してしまうのだから、どうやって使えばいいのか分かりません。
自分の中に、確かに存在することは分かっているのに。

研究室を修了する日まで二カ月を切りました。
でも、こんな感じのまま修了してもいいのかな……って、とっても不安です。
自分の力のコントロールもできないまま、学部の教壇に立ってもいいのかな……。
学部の教壇……。
建て前ではそうしなければならないことは分かっています。
でも本心では、……そうするつもりは これっぽっちも無い。
ここでのことはカリンさんに託して、私は……、私も……。
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