サラの日記666(冷たくて鋭い棘(とげ)のようなものが)

銀菓神暦2017年1月31日

ルセット先生と、いつも以上に目が合う一日でした。
でも、意識体の全てにロックをされていて、私にはルセット先生が何を考えていらっしゃるのか読むことができません。
読もうとすると、冷たくて鋭い棘(とげ)のようなものが身体中に刺さるような気分になります。

ルセット先生と一緒にモンテ学長のところへ植物館を吹き飛ばしてしまった謝罪に行ったあと、そのまま二人で植物館の様子を見に行ってみました。
補修工事は大掛かりなものになってしまっています。
ルセット先生が口を開かれました。
「嵐のアロゼを治める方法は?」
私は首を横に振りながら答えました。
「ううん……」
「見付けるんだ。また何かを起こしてしまう前に」
「はい……」
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サラの日記665(ルセット先生は私の胸のペンダントにそっと指を添えて、)

銀菓神暦2017年1月30日

朝、菓子工房ミヤマエの仕事の時間にルセット先生が地下の部屋に来られた物音で目が覚めました。
ルセット先生は私の胸のペンダントにそっと指を添えて、何かをチェックしていらっしゃいました。
「大丈夫? いつも通りに動ける?」
それは、ルセット先生の、久しぶりに暖かくて穏やかな声でした。
「……うん」
私がそう答えると、ルセット先生は私を抱きかかえるようにしてベッドの上に座らせてくださいました。

放課後、ルセット先生から通信がありました。
<今日はどっちに帰る?>
その響きに、昨日までの冷たさはありません。
<……城に>
<分かった。先に帰ってて。それから……、しっかり食事を。ウィルに頼んであるから>
<……はい>

だけど、心のどこかで、昨日までのルセット先生と今日のルセット先生の、どちらを信じたらいいのか迷っている私がいます。

サラの日記664(ただそうやって一日が過ぎて、)

銀菓神暦2017年1月29日

実家の地下室で、いつの間にか眠っていました。
身体中が熱くて熱くて、目を開けると、ルセット先生に抱き締められていました。
でも、ルセット先生の意識体には穏やかさも優しさの気配もなく、ただ冷たくて鋭い。
なのに、触れられる全てが熱い。
話し掛けようと思った瞬間、<黙れ!>と伝わってきました。
辛いわけでも悲しいわけでもないのに、涙が溢れてきました。
再びルセット先生からのメッセージが伝わってきます。
<泣くな!>

ベッドから出ることもなく、何か食べることもなく、ただそうやって一日が過ぎて、
夕日が地平線に沈む頃、
ルセット先生はようやく帰り支度を始められました。

ルセット先生は私の胸のペンダントにちらりと目をやって、
「今夜はここから出るな」
と言い残して城へ帰って行かれました。

サラの日記663(そして、今日のルセット先生も、鋭くて冷たい。)

銀菓神暦2017年1月28日

ルセット先生は、「今日も城でおとなしくしていろ」と言い残して出掛けて行かれました。
はっきりとは言われていないのだけれど、これは自宅謹慎です。
そして、今日のルセット先生も、鋭くて冷たい。

いつもなら忙しくしているはずの時間を、一人でおとなしくしていろだなんて、今の私には無理な話です。
一人で居ると、頭の中はどんどん不安でいっぱいになっていくばかりです。
ウィルさんやマリーさんの目を盗んで、カリンさんの所へ行きました。

研究室から帰って来られたルセット先生は、いきなり私を怒鳴りつけられました。
「どうして おとなしくしていられないっ!」
それから、バタンと大きな音を立ててドアを閉め、どこかに行ってしまわれました。

心臓がどきどきして、息が苦しくなって、手足が冷たくなっていくのを感じました。
とっさに緊急用鳥居を手刀で描いてくぐった先は、実家の地下に増築した新しい部屋でした。

サラの日記662(ええ、もちろん、銀菓神使だって人の子です。)

銀菓神暦2017年1月27日

昨日ルセット先生からの鋭い交信があったあと、今朝目が覚める前までの記憶がありませんでした。
私が目を覚ますとルセット先生はとっくに身支度を済まされていて、菓子工房ミヤマエの朝の仕事に出掛けようとしていらっしゃるところでした。
ルセット先生は私が目覚めたことに気付くと、「今日は何も考えずにゆっくりしてるといいよ。この部屋から出るのは構わないけど、このフロアからは出ないこと。いいね?」と、まるで子供に言いつけでもするような口ぶりです。
「ねえ。私、なんにも覚えていないの。何があったの? どうなったの?」
すると、ルセット先生はちょっと困った顔をされましたが、答えはありませんでした。

出るなと言われると出たくなるのが人情です。
ええ、もちろん、銀菓神使だって人の子です。
こっそり植物館を覗きに出掛けました。
が……。
植物館がばらばらです。
何かに吹き飛ばされたような事態になっていて、立ち入り禁止のロープが張られています。

急に後ろから誰かに両肩をつかまれました。
ルセット先生でした。
「だから『出るな』と言ったんだ……。嵐のアロゼを封じ込める方法を考えろ……」
今日のルセット先生も、冷たくて鋭い。

サラの日記661(ルセット先生の声が、私の意識体に鋭く刺さりました。)

銀菓神暦2017年1月26日

昨日はわざとこぼした熱々のシロップが、今日は本当に手元がくるってこぼれてしまいます。
昨日はルセット先生のことで出てきた涙が、今日は自分が情けなくて出てきます。
鍋の火を止めて、植物館に逃げ込みました。
製菓に集中できない自分の気持ちから逃げ出したくて、植物館に駆け込みました。
でも、どこへ逃げても、自分の気持ちは自分の中にあって、どこかに逃げ込んだら離れられるってわけではありませんでした。
当たり前のことです。
当たり前のことなのだけど、どうすればいいのか分からなくて、どこかに逃げ込むしかありませんでした。

なぜか、植物館の中に風が吹き始めました。
風はどんどん強くなっていきます。
雑草コーナーの片隅に積み上げてあった枯れ草が、みるみる舞い上がっていきます。
ルセット先生の声が、私の意識体に鋭く刺さりました。
<サラっ! やめろ! その力を使ってはいけないっ!>

アロゼの休憩室66「ルセット先生が火星に派遣される日」

ルセット先生が火星に派遣される日が、少しずつ少しずつ近付いています。
サラちゃんは、ルセット先生が黙って行ってしまうのではないかと、とっても神経質になっているようです。
ルセット先生はそのことを周りに悟られないように、サラちゃんにわざと淡々と接する作戦を取ったようですが、
そのことが返ってサラちゃんの心配を大きくしてしまっているようです。

残すところあと二ヶ月余りの連載となった『銀菓神使アロゼ~アロゼ誕生前の物語~サラの日記』ですが、
よろしければぜひ最後までお付き合いください(^-^)

「Peanuts Orchestra」シリーズは第3巻を制作中です。
発売は4月頃を予定しております(多少前後する可能性アリ)。
こちらの方もどうぞお楽しみに(#^.^#)

サラの日記660(こぼれてくる涙を、火傷(やけど)のせいにしました。)

銀菓神暦2017年1月25日

実家の菓子工房ミヤマエで仕事をしている時も、
研究室に居る時も、
城に居る時も、
気が付いたらルセット先生のことを目で追っています。
昨日のあの夢が、いつか本当のことになってしまうんじゃないかと心配で。

で、とうとうルセット先生に叱られてしまいました。
<サラ! 今やるべきことに集中しろ! でないと周りに悟られる>
その波動は、いつもの穏やかなルセット先生ではありませんでした。
冷たくて、とがっていて、柔らかさのかけらも無い。

そんな風にされたら、余計にルセット先生のことばかり追ってしまいます。
本当にこのまま突然居なくなってしまうんじゃないかと心配で。

涙が出そうになるのをごまかすために、炊いていたシロップをわざと手の甲にこぼしました。
「熱っ!」
そうやって、こぼれてくる涙を、火傷(やけど)のせいにしました。
見ていたジャックさんが薬草で手当てをしてくれました。
「サラちゃん、なに泣いてんだよ。こんなの いつものことじゃん」

サラの日記659(朝起きたら、ルセット先生が居なくなっていました。)

銀菓神暦2017年1月24日

朝起きたら、ルセット先生が居なくなっていました。
自室を出てルセット先生の姿を探していると、ルセット先生にそっくりだけどルセット先生ではない人、シュウちゃんが、こちらに向かって歩いて来るのが見えました。
私はシュウちゃんに駆け寄りました。
「シュウちゃん! ミシェルは? ミシェルはどこ?」
シュウちゃんが交信で答えるのが聞こえました。
<ミシェル殿下は出発されたよ。人の目のある場では、僕のことをミシェル殿下だと……>

そこで目が覚めました。
いつもと同じ。
隣に、ルセット先生が眠っています。
ほっとして、しばらくルセット先生の寝顔を見詰めていたら、ルセット先生が目を覚まされました。
「どうしたの? サラ」
いつの間にか半泣きになっていた私の頬を、ルセット先生の指が優しく伝います。
「ミシェル……。黙って行かないでね。……お願い」

サラの日記658(「遠くはないよ。あそこに見えてる」)

銀菓神暦2017年1月23日

夕方、私がカリンさんのところから帰って来るのを見計らったかのようなタイミングで、ルセット先生から通信がありました。
<サラ。無理はするな>
<……えっ?>
<なんだか知らないけど、難しいことに取り組んでるんじゃないのか?>
<ん、うん……>
<手が空いたら屋上においで>
<……うん。もう空いてるから行ってもいい?>

ルセット先生は南西の空を指差されました。
「遠くはないよ。あそこに見えてる」
ルセット先生が指差されたのは火星でした。
「あのね、ミシェル」
カリンさんとのことを打ち明けてしまおうと口を開きました。
でも、ルセット先生はそのことを知ってか知らずか、私の言葉をさえぎるようにこう言われました。
「遠くはないよ。よーく目を凝らせば手を振ってるのが見えるかもしれない」
それから、少し照れくさそうに笑われました。

サラの日記657(包容のアロゼ)

銀菓神暦2017年1月22日

先代の銀菓神使アロゼから頂いた力が「包容のアロゼ」であることは、その力を一心に感じ取ろうとしていると、徐々に分かってきました。
それから更に感じ取れたものがありました。
自分のために使っても効力がないはずの銀菓神使の力ですが、不思議なことに、この「包容のアロゼ」は自分のために効力を発揮することができるもののようです。

思いました。
先代の銀菓神使アロゼも、今の私のように、相反する二つの気持ちの狭間で苦しんだことがあったのかもしれないと。

使い方は、本能のようなもので感じ取れました。
自分の意識体を「包容のアロゼ」で包み込みます。
もう少しで吹き出しそうになっていた「嵐のアロゼ」の気配が、ゆっくりと治まっていくのを感じます。

ルセット先生の意識体が、私の意識体を探っている気配を感じました。
<サラ……。いや、何でもない……。いや、やっぱり……。もう、一人前だね。僕の留守は安心して任せられる>

サラの日記656(嵐のアロゼ)

銀菓神暦2017年1月21日

ルセット先生には絶対に知られないようにしています。
ルセット先生に気付いて欲しいなと思っています。
この二つの相反する気持ちが、銀菓神使アロゼの、負の力を生み出してしまいました。
「嵐のアロゼ」。

だめです。これは絶対に使ってはいけない。
人々の幸せのために与えられているはずの銀菓神使の力が、そうではない方向に作用してしまう。
そう感じるのです。
これを抑え込むためには、自分の中の二つの相反する気持ちを一つにまとめるしかありません。

――助けて……――
心の底からそう思った瞬間、先代のアロゼから受け継いだ、何かの力が目覚めるのを感じました。

サラの日記655(冷静になって考え直してみればとっても危ないことを考えてしまいます。)

銀菓神暦2017年1月20日

一人で居ると、ついつい要らないことばかり考えてしまいます。
カリンさんとのこと、ルセット先生には相談できないけれど、シュウちゃんにだったら相談してみてもいいかな……なんて、冷静になって考え直してみればとっても危ないことを考えてしまいます。

でも、本当にシュウちゃんに相談したらどうなるかな……。
止められちゃうかな……。

自分の中ではもうちゃんと決めているはずなのに、どうして誰かに相談したいと思ってしまうんだろう。
今さら誰かに相談しても、もうとっくにカリンさんを巻き込んでしまっているのに、どうして真っ直ぐ突っ走れないんだろう。

ルセット先生は……、今の私のこんなことに気付いてくれないのかな……。
あれ? 
どうしてそんなこと思うんだろう。

サラの日記654(だったら、もう決まっています。)

銀菓神暦2017年1月19日

頭の中ではまだ悩んでいるのだけれど、
心の中ではもう決まっています。
今まで考えてきた通り、カリンさんに託します。

できるものなら、誰かに相談したい気分です。
そうすれば、気分だけは楽になるかもしれません。
でも、私の今の立場ではそれはできないから、
だったら、もう決まっています。

空き時間、鳥居をくぐり抜けた先には、何かを悟ったような表情のカリンさんが待ってくださっていました。

サラの日記653(最後の工程)

銀菓神暦2017年1月18日

カリンさんのことは信頼していますが、最後の工程に入っていいものかどうか迷っています。
最後の工程。
カリンさんに、私の意識体の一部を渡すこと。

ルセット先生がシュウちゃんにこれを施した時、どんな気持ちだったんだろう。
何も迷わなかったのかな……。

私は……。
信頼はしているけれど、最後の壁を破るのは、もう少し……。

私の中には、私の意識体とルセット先生の意識体が存在する。
その一部を、カリンさんに渡してしまってもいいの?

ルセット先生がシュウちゃんにそうできたのは、なぜ?

サラの日記652(自分の目でみたこと、自分の心で感じたことを信じたい。)

銀菓神暦2017年1月17日

カリンさんのことを信頼しています。
ルセット先生がカリンさんを私たちの極秘護衛官に選んだんだからってこともあるけれど、
私の心で見て、カリンさんは信頼できる人です。
ケンジさんは「危険」と言っていたけれど、何が危険なのだか分かりません。
確かに、カリンさんの過去のことを考えると、信頼しきってしまうのは、今の私の立場上、おかしいことなのかもしれません。
でも、私は自分の目でみたこと、自分の心で感じたことを信じたい。
カリンさんは信頼できる人です。

ケンジさんからの忠告は、それはそれで真摯に受け止めておくつもりです。
ケンジさんも、私たちの大切な仲間です。

サラの日記651(続けてもサラさんは後悔します。)

銀菓神暦2017年1月16日

いつものように鳥居を抜けて、カリンさんのところに行くつもりでした。
が、鳥居を抜けた先に誰かが立っていました。
ケンジさんです。
「サラさん。まだ続けるんですか?」
「……続けさせてください。今やめたら、私、きっと後悔します」
「続けてもサラさんは後悔します。ルセット先生の知らないところで彼女に関わるのはやめておいた方がいい」
「カリンさんは、私にとっても仲間です。ケンジさんはカリンさんの何をご存じなのですか?」
「……とにかく、彼女は危険です。うまく説明はできませんが……」

そこへ、カリンさんの姿が見えました。
ケンジさんはカリンさんの方をちらりと見ると、何も言わずに鳥居の向こうへと消えて行かれました。

アロゼの休憩室65「大寒波で雪の降り積もる中でのとんどでした」

こんばんは、アロゼの休憩室です。
サラちゃんたちの商店街でもそうだったようですが、
今日、私の住んでいる地域でもとんど祭りが行われました。
大寒波で雪の降り積もる中でのとんどでしたが、子どもたちは楽しく遊べたようです。

この降積雪を伴う大寒波は明日も続くようで、事故など心配ですが、
皆さまどうぞお気をつけてお過ごしください。

サラの日記650(いつもは果物を積んでいるシュウちゃん家(ち)のトラックですが、)

銀菓神暦2017年1月15日

研究室はお休みで、
菓子工房ミヤマエのある商店街のとんど祭りがありました。
商店街の皆さんはもちろん、お出掛けで訪れていらした方々も参加され、賑やかな祭りになったようです。

「なったようです」というのは、私はとんど祭りに出す白玉ぜんざいの準備で忙しくて、祭りに参加する暇が無かったからです。

いつもは果物を積んでいるシュウちゃん家(ち)のトラックですが、今日は白玉ぜんざいの入った大きなお鍋を運ぶのに活躍してくれました。

最後のお鍋がミヤマエに戻って来たあと、工房で、私たちだけの小さなとんど祭りをしました。
と言っても、みんなで白玉ぜんざいをほおばっただけですが……。

サラの日記649(ずっと白玉を丸めていました。)

銀菓神暦2017年1月14日

お昼を過ぎた頃から、ここ花綵(はなづな)アグルム地方でも雪がちらつき始めました。
日が落ちた頃から少しずつ積もり始めています。
気温がぐんと下がっているためか、実家の菓子工房ミヤマエでは、白玉ぜんざいが どんどん売れています。
今朝は研究室へ向かうまでの二時間ほど、ずっと白玉を丸めていました。
丸めながら考えていました。
やっぱり私は、おとなしくしていた方がいいのかな……。
やっぱり私は、周りの人たちにされるがままに護られている方がいいのかな……。
でも、そういうの、私じゃない。

今日もやっぱり、空き時間を使ってカリンさんのところに行ってきました。

サラの日記648(このぐらいのことで研究室がお休みになったりはしません。)

銀菓神暦2017年1月13日

花綵(はなづな)アグルム地方には大寒波が近付いています。
これが一般の人たちの話なら、明日の研究室はお休みです。
でも、私たちは銀菓神使。
このぐらいのことで研究室がお休みになったりはしません。
そして、研究生が行くかどうかは本人の考え方次第ですが、
ルセット先生は絶対に出勤です。
ルセット先生が出勤されるのなら、私も明日は研究室です。

マリーさんが大きな包みを抱えて部屋に入って来られました。
「明日のお出掛けはお寒いでしょうから、これ、着て下さいね」
なんだろうと思って、マリーさんから受け取った包みを開けてみると、いつも着ているものの二倍ほどふんわりのコートでした。
「うわぁ! ありがとうございます!」

サラの日記647(私が使い方を知らないだけで、)

銀菓神暦2017年1月12日

心配していたことが現実になりました。
昨夜、鳥居を二重に使ったあと、カリンさんのところから直接城に帰ることはできませんでした。
鳥居を二重に使う場合、往路に使った道順の逆でないと元の場所には戻れないようです。
城に帰るつもりでくぐった鳥居は、銀菓宝果の保管空間に繋がりました。
でも、緊急時には鳥居を二重三重に使うこともあるはずです。
私が使い方を知らないだけで、二重三重に使うこともできるはずです。

図書館で、鳥居を二重三重に使うことについての文献がないか探してみました。
今日探した限りではそのような文献は見付かりませんでした。
銀菓神使にとって鳥居は有効な移動手段であるけれど、あくまでそれは「移動」に使えるというだけのことであって、往路と復路が異なる場合の「ショートカット(近道)」には使えないようでした。

サラの日記646(でも、これまでに鳥居を二重に使ったことがありません。)

銀菓神暦2017年1月11日

あとは後期の試験を落とさなければいいだけだから、二年生の棟は随分と静かになりました。
私も、昨日まで論文に掛けていた時間の全てを、カリンさんとの時間に充てることにしました。
問題は、ルセット先生やメランジェ先生、モンテ学長の目を、どうやって ごまかすか です。

で、思い付いたんです。
銀菓宝果のお世話に行った時に、そのまま手刀の鳥居でカリンさんのところに行けないだろうかって。
でも、これまでに鳥居を二重に使ったことがありません。
とっても不安です。
一番気軽に相談できるはずのルセット先生には、今回ばかりは絶対に相談できません。

今夜、銀果宝果の保管空間から、手刀の鳥居でカリンさんのところに行くことを試みてみます。

サラの日記645(窓口の担当はミナミ先生でした。)

銀菓神暦2017年1月10日

論文の提出日でした。
メランジェ先生のチェックを受けて、事務所に行ったら、窓口の担当はミナミ先生でした。
ミナミ先生はメランジェ先生のチェックを確認すると、「はい。確かに受け付けました」と微笑んでくださいました。
私と入れ替わりに、マヤちゃんとルシアちゃんもやって来ました。
マヤちゃんとルシアちゃんは、先に事務所を出ていた私を、走って追いかけて来ました。
ルシアちゃんが、「ね。一緒にランチどう?」と誘ってくれました。

随分久し振りの学食です。
モンテ学長が、「ご一緒しても?」と私たちのテーブルにいらっしゃいました。
モンテ学長はこんなことを話されました。
「サラさんは学部で経験を積まれたら、研究室の方に戻って来られるといいですよ。こちらの方が、何かと都合のいいことが……。ん、まあ、ちょっとそう思ったりもしただけですけどね。取り敢えずは学部で経験を……」

モンテ学長は、私の中で起こっていることに気付かれていらっしゃるのでしょうか。

サラの日記644(どちらを選んだ私が正しい?)

銀菓神暦2017年1月9日

ケンジさんは、私がそこらじゅうにまき散らしている、「どんな手段を使ってでもルセット先生のそばに居たい」という気持ちのかけらを察知して、忠告してくださいました。

分かっています。
銀菓神使の力を自分だけのことに使ってはいけないということ。
銀菓神使の力は私利私欲のためには使えない、使っても力を発揮することはできないということ。
でも、それでも……。

それなら、銀菓神使の力を封印してでもルセット先生のそばに居られる方を選びたい。

私が銀菓神使を目指したのは、実家の菓子工房を継ぎたいと思ったからだった。
でも、途中でルセット先生に出会った。
それからは、ルセット先生に近付きたくて頑張った。
で、銀菓神使の称号を得た。
だけど今は、銀菓神使の力を失ってでもルセット先生のそばに居られる方を選びたい。
もう、私のわがままにカリンさんをも巻き込んでしまっている。

私はどうすればいい?
このまま おとなしく、ルセット先生が火星支局での勤務を終えて帰ってくるのを待っていればいい?
それとも、今の気持ちのままに、ルセット先生に付いて行くことを選べばいい?
一年、長ければ三年以上の時間が流れたあと、どちらを選んだ私が正しい?

サラの日記643(その力を、自分のためだけに使ってはいけない)

銀菓神暦2017年1月8日

論文の提出期限は明後日です。
今日と明日で最後の最後のチェック。
これからやろうとしていることを思うと、この論文に書いたことがとっても幼稚に思えてきます。
研究室を修了するための、形式だけの論文に思えてきます。
でも今は、研究室を修了することが大事。
研究室を修了して、一人前の銀菓神使になって、
……なって、
ルセット先生と一緒に居ることが大事。
この時代にこそ、何世紀もの時を越えて願ってきた想いを、きっと叶えたい。

ふと、鳥居のペンダントから伝わってきました。
<いけない。その力を、自分のためだけに使ってはいけない>

サラの日記642(もちろん、それはうそでした。)

銀菓神暦2017年1月7日

「あ、おかえり。どこに行ってた?」
自室で、ルセット先生がいつものように迎えてくださいます。
「ん、ちょっと……。論文のチェックばかりで疲れちゃって、屋上で気分を変えてたの」
もちろん、それはうそでした。
本当はカリンさんのところに行っていました。

ルセット先生は、そんな私の顔をじっと見て言われました。
「大丈夫? 気分転換していたわりには疲れた顔してるけど」
「ん? そうかな……。ちょっと寒かったから……」
「風邪ひかないようにね。寝込んで提出期限に間に合わなくても、僕は助けないよ」
「もう! そういうところだけは、ちゃんと公私を分けるのね?」

サラの日記641(「いえ! いいんです……。私のわがままだから……」)

銀菓神暦2017年1月6日

ルセット先生と目が合う度にどきどきしました。
私がカリンさんにある依頼をしたことが、ばれてしまわないかと。

ルセット先生の目を盗んで、カリンさんのところに行きました。
カリンさんは心配してくださいました。
「このこと、ルセット先生には話さなくていいんですか? サラさんから話しにくいのなら、私が」
「いえ! いいんです……。私のわがままだから……」
カリンさんはほんの少し微笑んで、それ以上は追い詰めずにいてくださいました。

心のどこかで、
一番託してはいけない、頼ったら負けだと思っていた人なのに、
ルセット先生には打ち明けられない心を、こんなにも素直に開くことができるのはなぜでしょう。

アロゼの休憩室64「あけましておめでとうございます」

あけましておめでとうございます
昨年はあたたかい応援ありがとうございました
本年もどうぞよろしくお願いいたします

今年は春に『銀菓神使アロゼ~アロゼ誕生前の物語~サラの日記』が完結、
同じく春に『Peanuts Orchestra シリーズ3 笛師のホーリーさん』を出版、
夏~秋に『Peanuts Orchestra シリーズ4 コリンちゃんの入団テスト』
冬に『Peanuts Orchestra シリーズ5 精なるものが生まれる処』の出版を予定しております。

どうぞお楽しみにヽ(^o^)丿

また、
Facebook の方には日々の活動の様子を随時upしています。
どうぞご覧ください。

サラの日記640(一番託してはいけない人)

銀菓神暦2017年1月5日

だったら……。
だったら、私が絶対に離れなければいい。
決めた。
そう思ったら、ルセット先生の目を盗んでカリンさんのところへ向かっていました。
私が安心して託せる人は、カリンさんしか居ない。
一番託してはいけない人だと分かっていても、一番弱みを見せたくない人だと分かっていても、託せる人はカリンさんしか居ない。

カリンさんは、私が来ることを予め知っていたかのように、落ち着いた様子で迎えてくださいました。
「来ると思ってたの」
そんなことを言って。
それなら話は早いと、私はすぐに本題に入りました。
「お願いがあるんです」

カリンさんは私のお願いを受けてくださいました。
「私はお二人の極秘護衛官。頼っていただけて光栄です。万全の体制でお力になれるよう、早速準備に入ります」

サラの日記639(ルセット先生には特別な人)

銀菓神暦2017年1月4日

ルセット先生が、火星支局に行くという話を、カリンさんにできなかったことは直感で分かりました。
分かってからずっと、胸の中で、涙が止まりません。
カリンさんはやっぱり、ルセット先生には特別な人だったんだと、思い知らされたような気がしました。
もちろん、ルセット先生が私のことを大切に思ってくださっていることはよく分かっています。
でも、それとは別なんです。
私が考え過ぎているだけかもしれません。
でも、今ルセット先生と離れたら、きっとまた前世と同じような事の繰り返しです。
私たちは一緒にはなれない。
だったら……。

どこかで、小さな覚悟はできていました。
でも今は、それは小さくはありません。
もう、悲しい繰り返しはしない。
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