サラの日記635(本殿の、そのもっと奥の方からいい匂いがしてきたので、)

銀菓神暦2016年12月31日

銀菓神社の、年越し年迎えのお手伝いが始まりました。
本殿の、そのもっと奥の方からいい匂いがしてきたので、なんだろうと思って覗きに行ってみたら、ケンジさんが年越しそばを作っていらっしゃいました。
ケンジさんは私とルセット先生の姿に気が付くと、すぐに手招きしてくださいました。
「お疲れさまです。どうぞ食べてくださいね。あったかいですよ」
私たちが年越しそばを食べ始めると、ケンジさんはこんなことを訊かれました。
「明日も何か作ろうと思うんです。ぜんざいと甘酒、どちらがいいですか?」
私が「ぜんざい」と答えるのとほとんど同時に、ルセット先生が「甘酒」と答えられました。
ケンジさんは笑いながら、私たちの顔を交互に見ながら、「じゃあ、どちらも用意させていただきますね。きっとほかの皆さんも好みが分かれるところでしょうから」と言われました。
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サラの日記634(多分、春までに もう数回しかない、)

銀菓神暦2016年12月30日

明日からの銀菓神社のお手伝いの下見に行きました。
多分、春までに もう数回しかない、ルセット先生と一緒にできる仕事。
でも、感傷的になっていたら仕事にならないから、銀菓神社に居る間は仕事のことだけに集中しました。

そのあと、一人で銀菓宝果のところに行きました。
この空間でなら、自分の全部を出しても大丈夫な気がしました。
寂しい気持ち、不安な気持ち、頑張らなきゃという思い。
その全てを、銀菓宝果にぶつけました。
銀菓宝果は偉大でした。
アグルムの聖石の母体から感じたことのある力に似ているとも思いましたが、それ以上の深さも感じました。
アロゼである私を、一生懸命に知ろうとしてくれているような、そんなものを感じました。

サラの日記633(「ごめんね……」)

銀菓神暦2016年12月29日

「本当は一緒に居たい……」
自分の口からこぼれるその声で目が覚めました。
聞いたばかりの時は、冷静で平気でした。
でも今は……。
頭の中は、ルセット先生が火星支局に行ってしまわれることでいっぱいです。
心の中も、ルセット先生が火星支局に行ってしまわれることでいっぱいです。
涙で濡れた頬がルセット先生の指で拭われて(ぬぐわれて)、ルセット先生の手のひらで温められます。

「ごめんね……」
ルセット先生は静かにそう言われました。
私が泣いているとルセット先生の方が苦しくなるってことは分かっています。
でも、涙を止める方法が見付かりません。

サラの日記632(傍受の気配がする……)

銀菓神暦2016年12月28日

<サラはびっくりしないんだね>
<ミシェルがそう仕向けてくれるから>
<サラが、そう仕向けさせてくれるから。あ、待って……>
<何?>
<傍受の気配がする……>
ルセット先生はそう言うと、ぴたりと交信をやめられました。

そのあと、なんでもない風を装って、二人で、自室の鳥居と屋上の鳥居の大掃除をして、新しいしめ縄をつけました。
「新しい年が来るね……」
ルセット先生は、きれいになった屋上の鳥居を見上げながら、ぽつりとそう言われました。

サラの日記631(磁場の復元実験をするんだ)

銀菓神暦2016年12月27日

<ねえ、ミシェル。火星支局って何をしてるの?>
<ん……、知らない>
<ミシェルの仕事はどんなことになるの?>
<磁場の……>
<磁場?>
<うん。磁場の復元実験をするんだ>
<そんなことできるの?>
<銀菓神使の力でなら、五次元時空間での復元ができるかもしれない……って仮説があるんだ>
<生活環境は大丈夫なの? 狭いところで、ずっと同じメンバーで生活するってことでしょう?>
<うん……。どうやら僕は、その選考に通ってしまったらしいよ。地震の影響で生じた波動の乱れを克服した経験もあるしね……>
<あ、あれ、知られちゃってたの?>
<どこかからね……>
<実験の磁場の影響で、銀菓神使の力に何かあるってこと、あるんじゃないの?>
<……あるだろう。だから選ばれたんだ……>

城の自室でのルセット先生との交信は、取り留めもなく続きました。

アロゼの休憩室63「衝撃の告白」

本日の「サラの日記630」では、ルセット先生から、ついに衝撃の告白がありました。
これからラストまでの約3か月間、サラちゃんを取り巻く環境がどんどん変化していきます。
ついて来てくださいね!(^^)!

そして、『Peanuts Orchestra シリーズ2 カンド・ナッツ・ホールのひみつ』
(ISBN978-4-908858-02-4)
は好評発売中です!
巻が進むにつれ、<ほっこりSF絵童話>へと、少しずつ、その全容が明らかになっていく(はずの)シリーズです。
応援よろしくお願いいたします。

サラの日記630(サラのことも、城のことも……)

銀菓神暦2016年12月26日

城の自室に一緒に居るのに、ルセット先生は、意識体の交信で話し掛けて来られました。
<火星なんだ>
<……赴任先?>
<うん。そうだよ>
<……でも、時々は帰って来られるんでしょう?>
その問いかけに、ルセット先生は、今度は交信ではなく、黙って首を横に振られました。
しばらく沈黙が続いて、ルセット先生が交信を再開されました。
<最低でも一年。仕事の進み具合によっては二、三年。……花綵(はなづな)アグルムの王太子が不在と知れることで不都合があってはならないから、シュウくんに力を借りることにした。城の関係者でも銀菓神使でもなくて、サラのことを任せられるのは彼しかいない。もしも、万が一、今度の仕事が誰かの企み(たくらみ)で、僕がここに帰れなくなるようなことがあっても、……シュウくんになら安心して全てを託せる。サラのことも、城のことも……>

サラの日記629(「プレゼントがあるんだ。ちょっとあっち向いてて」)

銀菓神暦2016年12月25日

城の自室。
「プレゼントがあるんだ。ちょっとあっち向いてて」
ルセット先生が言われました。
しばらくして、「いいよ」と言われたので、ルセット先生の声がする方を見ると、ルセット先生の横にシュウちゃんが並んでいました。

ルセット先生とシュウちゃんの意識体がぶつかり合って、ゆっくりと混ざり合うのを感じました。
二人のどちらがどちらだか分からない程になって、やがて、ルセット先生が二人……。

元々ルセット先生だった方のルセット先生が、「言えなかったんだ。完成するまでは。シュウくんに、僕の影武者を引き受けてもらった」と言われ、元々シュウちゃんだった方のルセット先生が、「大丈夫かな? 僕、殿下に見える?」と訊きました。

私は、なんとなくは分かっていたけれど、実際にそうなっている二人を目の前にして、ただびっくりしたまま うなずくしかありませんでした。

サラの日記628(ちゃんと おじいちゃんと おばあちゃんになって)

銀菓神暦2016年12月24日

午前中は菓子工房ミヤマエで売り物用のクリスマスケーキを、午後からは城で自分たち用のクリスマスケーキを作りました。
売り物用のは、お仕事だから、多少疲れていても頑張って丁寧に作れるのだけど、自分たち用のは手抜きし放題です。
こんなのでいいの? ってぐらい簡単なものになっちゃいました。
本当なら、菓子工房ミヤマエで売り物用として作った物を分けてもらえばよかったのだけど、来年の今頃どうなっているのか分からない私たちは、どんなに簡単なものであっても、売り物用とは別に用意したかったんです。

急に、こんな言葉が飛び出しました。
「私、無事に引退したいの」
ルセット先生は「ん?」と、よく分からないという表情をされました。
「私、ミシェルと一緒に、ちゃんと おじいちゃんと おばあちゃんになって、銀菓神使を引退して、サンタクロースさんのお手伝いができるようになりたいの。途中で何かあって……っていうんじゃなくて、ちゃんと おじいちゃんと おばあちゃんになって」
すると、ルセット先生はにっこりとうなずいて、「うん。ちゃんと おじいちゃんと おばあちゃんになろう」と言ってくださいました。

サラの日記627(私はルセット先生とシュウちゃんが用意してくれていることに付いて行くだけです。)

銀菓神暦2016年12月23日

冬休みが始まりました。
でも、ずっと机に向かっています。
冬休みが明けたら、いよいよ研究論文の提出だからです。

ジャックさんも、ゾエさんと暮らしている邸宅から花綵アグルム城に帰ってきました。
そしてジャックさんもまた、部屋にこもって論文の仕上げに取り組んでいるようです。

そうなんです。
年越し年迎えの手伝いがやって来る前に、取り敢えずこれで大丈夫ってところまで完成させておきたいのです。

ルセット先生は……、多分シュウちゃんのところです。
はっきりとは聞いていないけれど、そんな感じがします。
もう、変な疑いは無いし、私はルセット先生とシュウちゃんが用意してくれていることに付いて行くだけです。

サラの日記626(ただ、銀菓宝果の輝き方から受け取ることのできる直感だけが、その答えです。)

銀菓神暦2016年12月22日

銀菓神局附属大学 花綵(はなづな)キャンパス 大学院は、明日から冬休みです。
昨日の大掃除の甲斐があったのか無かったのか、メランジェ研究室の書棚には、取り敢えずまとめられているようないないような書類が、おおざっぱに突っ込まれています。
今日は植物館の大掃除もやってきました。
落ち葉がたくさん集まって、良い腐葉土がたくさんできそうです。

それと……。
銀菓宝果の見回りと手入れも。
正式にアロゼの称号をいただいたあと、銀菓宝果の見回りと手入れは、基本的には私が一人でやっています。
いつも思います。
――見回りって、これでいいのかなぁ……。手入れってこんな感じでいいの?――
隣に、返事をしてくれる人はいません。
ただ、銀菓宝果の輝き方から受け取ることのできる直感だけが、その答えです。

サラの日記625(冬休み前の、研究室の大掃除です。)

銀菓神暦2016年12月21日

冬休み前の、研究室と製菓室の大掃除です。
製菓室は毎日掃除しているから、それほどびっくりするような汚れは無いのだけど、
びっくりするのは書類の山です。
もう要らないんじゃない? って思うような書類がたくさん。
一番多かったのはジャックさんの。
使うのか使わないのか分かんない、ハーブティーやハーブ料理なんかの、本からの写しがいっぱい。
だけど、処分しようとしていると、ジャックさんが慌てて様子を見に来ます。
「サラちゃん。それ捨てないでよ。また使うかもしれないから」
「えーっ。じゃあ、ちゃんとファイルするかどうかしておいてよ!」
「論文が終わったらやるからさぁ」
「えーっ。そんなこと言ってたらずっと片付かないじゃない!」

視線を感じて振り返ったら、私たちの様子を見ながら小声で笑っているタツキちゃんが居ました。

サラの日記624(仮の照明が用意されていました。)

銀菓神暦2016年12月20日

「行こっか」
ルセット先生が言われました。
「ん? どこに?」
「ミヤマエの新しい部屋」

この間は照明がまだだった菓子工房ミヤマエに増築中の新しい部屋には、仮の照明が用意されていました。
「これ、仮じゃなくて、このままでも素敵ね」
私がそう言うと、ルセット先生は、
「駄目だよ。学部の講師になるんなら、部屋の照明はきちんとしておかないと。本や書類に向かい合う時間が長くなるからね。研究生の時よりもずっと」

シュウちゃん家の方向からは、前に来た時よりも強い波動が感じられました。
ルセット先生のとよく似た。
<ねえ、ミシェル。もしかして……>
<ん……。まだ言えな……>
<まだ。まだ黙ってる。ミシェルから聞くまで>
<うん……>

サラの日記623(想像の中でしか分からない)

銀菓神暦2016年12月19日

ルセット先生は早速、マリーさんに、今の仕事に不都合がないかどうかたずねられたようでした。
「……マリーは『私の職場環境は特別恵まれてる』って言ってたよ。一般にはそうじゃない場合が多くあるってことだよね?」
「うん……、多分……。でも、私も想像の中でしか分からない」
「じゃあ、色々見てみないといけないね。僕らの代になったら、すぐに改善できるように」
「うん……」
でも、そう言ってうなずきながら、頭の中は、研究室を修了したあとの、おそらくルセット先生とは離れ離れになるであろう生活のことでいっぱいでした。
ルセット先生はそのことを悟られたのか、こんなことを言われました。
「僕らの代になるんだ。きっと」
それから、私の胸の、アグルムの聖石のペンダントをぎゅっと握り締められました。

サラの日記622(と、ある女性に目が留まりました。)

銀菓神暦2016年12月18日

ルセット先生と一緒に、四次元時空間での新しい応援先を探しに出掛けました。
と、ある女性に目が留まりました。
彼女はクリスマスシーズンに仕事を休めないことを悩んでいるようでした。
彼女の頭の中は、彼女の子どもさんのことでいっぱいになっています。
気になって、彼女の子どもさんの所へも行ってみました。
するとやはり、彼女の子どもさんもお母さんと一緒に過ごせないことで淋しい思いをしているようでした。
なんとかこの親子の力になってあげたいけれど、どうすればいいのか分かりません。
きっと私も、いつかこういう問題に突き当たるんだろうなってことは簡単に想像できます。
何かいいアイデアがあれば……。
ルセット先生がぽつりと言われました。
「マリーは大丈夫なんだろうか……」

サラの日記621(彼が、一年という時間を大切に使った結果です。)

銀菓神暦2016年12月17日

四次元時空間の菓子職人たちにとって、一年で一番忙しいイベントであるクリスマスが一週間後に迫りました。
今年も応援に向かいます。

去年私が担当した男の子には、後輩ができていました。
作業も、無駄のない、きれいな流れになっています。
後輩に、ちょっとした手助けをできるぐらいに上達しています。
彼が、一年という時間を大切に使った結果です。

――今年はもう大丈夫ね。あなたも、あなたの後輩も――

次の応援先を探すことにしました。

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サラの日記620(これまで通りに使えます。)

銀菓神暦2016年12月16日

銀菓神使スーツを使いこなせなくなっていること、ルセット先生に話すかどうか迷いました。
でも、何かあってルセット先生に迷惑をかけてしまうことになるのは嫌なので、思い切って話してみることにしました。
ルセット先生は、ちょっと考えたあと大きくうなずいて、何かに納得されているようでした。
「分かった。大丈夫だよ、サラ。心配しないで。サラのせいじゃないんだ。よく話してくれたね」
「……じゃあ、……なんのせい?」
「大丈夫だよ。すぐ使えるようにする。ちょっと待ってて」
ルセット先生はそう言うと、その場に手刀で鳥居を描いて、どこかへ出掛けて行かれました。

一時間ほどして戻って来られたルセット先生は、「着装してみて」と言われました。
着装した私に、ルセット先生は言われます。
「さ、このまま冷凍庫に行こう」

「どう? 寒い?」
ルセット先生は私の顔を覗き込まれます。
「ううん。寒くない」
私がそう言うと、ルセット先生は自分も着装されました。
「さ、月に行くよ。……怖い?」
「ううん。怖くない」

月でも平気でした。
銀菓神使スーツの機能は、これまで通りに使えます。

サラの日記619(使いこなせなくなってる?)

銀菓神暦2016年12月15日

メランジェ製菓室で、シロップを炊くためにお鍋に向かっていたら、いつの間にか汗をかいていました。
――あー、暑い……――
と思って、冷たいお茶を飲もうとしているところへ、タツキちゃんが入ってきました。
「やだ、サラちゃん。今日みたいな日にそんなに冷たいの飲んで……」
タツキちゃんの目は真ん丸です。
「だって暑いんだもん」
私がそう言いながらお茶を飲んでいると、タツキちゃんが訊きました。
「スーツは? 銀菓神使スーツは着装してた?」
「うん、してたよ。もちろん……。えっ! あっ!」
「でしょ? おかしいでしょ? サラちゃん、着装状態で暑くなるなんて……」

――私、銀菓神使スーツを使いこなせなくなってる?――

サラの日記618(やっと私の顔を見てくれました。)

銀菓神暦2016年12月14日

今年も、冬休みを意識する時期になりました。
そう言えば最近、タツキちゃんが不思議な地図を眺めては、ひとり幸せそうにしています。

「これ、どこの地図?」
思い切って訊いてみました。
「えっ? 月よ。冬休みに遊びに行くの」
タツキちゃんは地図から目を離すことなく、でも愛想よく答えてくれました。
「グラセさん?」
「うん。今までは支局の周りしか行ったことなかったんだけど、ちょっと遠出してみようってことになって」
嬉しそうにそう言いながら、タツキちゃんはやっと私の顔を見てくれました。

サラの日記617(研究論文の提出まで一か月を切りました。)

銀菓神暦2016年12月13日

研究論文の提出まで一か月を切りました。
最終仕上げの前に、メランジェ先生にチェックしていただくことになりました。
で、メランジェ先生の第一声は、「ほぉ。こう来ましたか……」でした。
――えっ?―― と思いました。ずっとメランジェ先生にご指導頂いた通りに進めてきたので、「こう来ましたか」になるようなことにはなっていないと思っていました。
「……だめですか?」
恐る恐るたずねてみます。
「いえいえ、だめではないんですよ。同じように指導しても同じようにならない結果が、私の一つの楽しみでもありましてね……。ですが、サラさんのは特に……」
「特に?」
「サラさんが自分の言葉でまとめていらっしゃるので、とても分かり易いものになっていますね」

サラの日記616(「大丈夫よ。大事な土だもの」)

銀菓神暦2016年12月12日

早朝の菓子工房ミヤマエ。
シュウちゃんが、「はぁ……。ここの排気口、あったかくていい匂いがするよ」と言いながら工房に入ってきました。
「あ、ちょっと待って」
私はさっき炊きあがったばかりのオレンジのジャムを紅茶に溶いて、シュウちゃんに手渡しました。
「わぁ。ありがとう。あったまるよ」
シュウちゃんはカップで手を温めながら紅茶を飲むと、「ごめんね。カップが土で汚れちゃったよ……」とカップの土を払いながら返してくれました。
「大丈夫よ。大事な土だもの」
私がそう言うと、シュウちゃんは私ににっこりして、ルセット先生にも会釈をして、上着の胸元をしっかりと閉めて、工房を出発して行きました。

サラの日記615(アランさんはさりげなく私たちから離れて、)

銀菓神暦2016年12月11日

体調はかなり大丈夫なつもりなのですが、それでもルセット先生からの外出許可は得られません。
でも、城内の画廊に案内してくださいました。
絵師長のアランさんが作品を一つ一つ説明してくださいます。
でも……、正直言うと、今日の私がアランさんの説明に耳を傾けることは、ただただ退屈で退屈で仕方ありませんでした。
できるだけ顔や態度には出さないようにしていたつもりなのですが、きりの良いところまでの説明を終えると、アランさんはさりげなく私たちから離れて、画廊の隅にある仮のアトリエで作業の続きを始められました。

だけど、ただ一つだけ、退屈ではない作品がありました。
どこかで見たことのあるような風景が描かれている作品。
私がよく知ってるはずの場所。

<分かるのか?>
ルセット先生が交信してこられました。
<うん……。懐かしい。でも、淋しくて苦しい>
<僕たちの、二つ前の時代>
<……この絵は、どうしてここにあるの?>
<分からない。僕がここに生まれる何代も前からここに……>

サラの日記614(ウィルさんとマリーさんにしっかりガードされています。)

銀菓神暦2016年12月10日

花綵アグルム城の自室。
ルセット先生が部屋を出られた隙(すき)に出掛けようとしても、ウィルさんとマリーさんにしっかりガードされています。
仕方がないので、マリーさんに部屋でできるお手伝いがないかたずねたら、銀の食器を大量に持ってきてくださいました。
一日掛けて城中の銀の食器を磨きました。

マリーさんが にこにこ しながらこんなことを言われました。
「もう準備の方は進んでいらっしゃるのでしょう? ご成婚の儀の」
それを聞いたウィルさんは小声で「しっ」と言いながら、マリーさんを肘でつつきました。
その様子で少し分かりました。
ルセット先生は、ウィルさんには今後の「何か」を話していらっしゃるのです。
私はマリーさんの質問に、にっこりとだけ返しました。
ルセット先生との結婚は、「何か」が終わった後になるんだろうなと思いながら。

サラの日記613(銀菓神使スーツを着装していると、)

銀菓神暦2016年12月9日

昨日飲んだ銀菓宝果の飲み物が効いて、今日はばっちりな体調のはずだったんです。
でも、朝になってみたら熱っぽかったんです。
けど、ルセット先生や周りの人たちに心配掛けたくなかったから、一日中メランジェ製菓室にこもって、銀菓神使スーツを着装していました。
菓子工房ミヤマエでのクリスマス用焼き菓子作り、研究室からの四次元時空間へのクリスマス菓子の製作支援、論文の最終仕上げ、それに花綵(はなづな)アグルム城での公務。
それでなくても忙しいのに、休んでいる暇はありません。
銀菓神使スーツを着装していると、自分で体温調整しなくてもいいので、熱っぽいのがごまかせて楽だったんです。
でも、さっきばれちゃいました。ルセット先生に。
明日は外出禁止です。
花綵アグルム城の自室でおとなしくしています。

サラの日記612(「じゃ、ひどくならないうちにこれ飲んで」)

銀菓神暦2016年12月8日

菓子工房ミヤマエで焼き菓子を作っていても、メランジェ製菓室でシロップを炊いていても、少しめまいを感じる一日でした。
で、メランジェ製菓室を出て、中庭で休憩しようと思って……、そこから記憶がありませんでした。

目が覚めたらルセット研究室のソファでした。
机に向かって何かを書いているルセット先生の後ろ姿が見えて、テーブル席でお茶を飲みながら本を読んでいるマヤちゃんと目が合いました。
「あ! サラちゃん、大丈夫?」
「……う、うん」
その話し声で、ルセット先生も、私が目を覚ましたことに気付かれました。
「この寒いのに、中庭のベンチで寝てたらしいよ。着装もせずに。マヤさんが見付けてくれたんだ。……無理してないか?」
「うん……。ちょっと風邪っぽかっただけかな……」
「じゃ、ひどくならないうちにこれ飲んで」
ルセット先生は銀菓宝果の飲み物が入ったカップを差し出してくださいました。

サラの日記611(それでも僕は頼んで、それでも彼は受けてくれた)

銀菓神暦2016年12月7日

ふと思いました。
「ねえ、ミシェル。シュウちゃんって、銀菓神使になるの?」
ルセット先生は研究室の窓の外に視線をやって言われました。
「ならないよ、銀菓神使には。彼には彼の居場所があるからね」

でも、最近のシュウちゃんからは、見掛ける度に、銀菓神使と同じような空気を感じます。

ルセット先生は、黙ってしばらく空を見上げたあと、こう付け加えられました。
「銀菓神使でも王族でもないから、彼に頼める仕事があるんだ」
「それは……危ないこと?」
「……それでも僕は頼んで、それでも彼は受けてくれた。……サラのお蔭で、僕にはいい友達ができた」

危ないことならしないで欲しいと思ったけれど、ルセット先生がシュウちゃんのことを「いい友達」だと言うから……、私には止められない。

アロゼの休憩室61「明日は<楽しいこと工房>1周年です!」

『Peanuts Orchestra シリーズ2 カンド・ナッツ・ホールのひみつ』の発売日、2016年12月15日(木)が近付いてきました。
その前に、おかげさまで明日は<楽しいこと工房>1周年です!
先日、フェイスブックの方に2周年に向けての目標を書いたのですが、
来年の今頃には第五巻刊行の目処が立っていることが目標です。
ラインナップが5作になれば、少しは格好がついているかな……という思いもあったりしています。

「Peanuts Orchestra」シリーズ
第一巻 篠笛のカリンさん―篠笛との出合い―(2016.6.30既刊)
第二巻 カンド・ナッツ・ホールのひみつ(2016.12.15刊行予定)
第三巻 笛師のホーリーさん(仮)(2017春~夏 刊行予定)
第四巻 コリンちゃんの入団テスト(仮)(2017夏~秋 刊行予定)
第五巻 精なる粒の生まれる処(仮)(2017冬 刊行予定)

『銀菓神使アロゼ~アロゼ誕生前の物語~サラの日記』の方も、少しずつ、それぞれの旅立ちの準備が進んできました。
2017年3月下旬で一応の完結になる予定です。
その後、ブログ版でお届けしたものを書籍化したり、『銀菓神使アロゼ』の本編を始める予定なのですが、いつ頃の刊行になるのかは未定です。

もともとたくましい方ではある(我が子談)想像力をより一層ムキムキと鍛え、皆さまにほっこり楽しんでいただけるような作品づくりをしていきたいと考えています。
今後とも応援よろしくお願いいたします。

サラの日記610(壁に沿ってゆっくり歩いていると、)

銀菓神暦2016年12月6日

ルセット先生に誘われて、研究室が終わったあと、菓子工房ミヤマエの地下に増築している私たちの新しい部屋の様子を見に行きました。
まだちゃんとした照明の設備が無いので、部屋の中は真っ暗です。
光のアロゼを灯します。
私が手をかざしている部分にだけ明かりが灯ります。
壁に沿ってゆっくり歩いていると、ある部分に、ルセット先生の波動によく似た波動が、かすかに感じられました。
立ち止まって首をかしげていると、ルセット先生が、「分かる?」と言われました。
「え? この波動のこと?」
私が聞き返すと、ルセット先生はこっくりとうなずかれました。
「僕じゃなくて、シュウくんだよ。ほら、こっち側、シュウくん家だろ?」
「どうしてシュウちゃんの波動が?」
「……」
ルセット先生は黙って穏やかに微笑まれました。

サラの日記609(メランジェ先生からのその質問に答えるよりも先に、涙が出てきてしまいました。)

銀菓神暦2016年12月5日

じっとしていられませんでした。
朝一番でメランジェ先生に相談しました。
「学部の講師でも職員用の寮って入れるんですか?」
メランジェ先生は「ん?」と私の方を見詰められました。
「職員用の寮ですか?」
「はい。入りたいんです。講師じゃだめなんですか? 常勤の、正規の職員にならないとだめなんですか?」
「おやおや、サラさん。どうされました?」
きょとんとされていたメランジェ先生の表情が、ゆっくりといつもの優しい笑顔に戻りました。
「……独り立ちしたいんです」
「ルセット先生には相談されましたか?」
メランジェ先生からのその質問に答えるよりも先に、涙が出てきてしまいました。
「話せていないのですね」
メランジェ先生は、かすかにため息をつかれました。

と、ルセット先生がメランジェ研究室に飛び込んで来られました。
「サラ! 心配させてごめん!」
メランジェ先生はそっと研究室を出て行かれました。

ルセット先生は私の両肩をしっかり掴んで、私を真っ直ぐに見詰めてこう言われました。
「サラが心配しているようなことは絶対ないから」
「……でも、シュウちゃんの波動とぴったり」
「それには訳があるんだ。でも、サラが心配しているようなことじゃない」
「私、もう、ミシェルのそばには……」
「居て欲しい。ずっと。今、そのために動いてる。信じて……」

不意に、勢いよくドアが開きました。
ジャックさんが私とルセット先生を交互に見ています。
「え? あ……。こんなところで何やってんだよ。そういうのは家に帰ってからにしてくれる?」

サラの日記608(シュウちゃんとのことを打ち明け)

銀菓神暦2016年12月4日

ルセット先生と目が合う度に胸がドキドキします。
シュウちゃんとのことを打ち明けられるんじゃないかとドキドキします。
最初は私の思い違いだと思ったりもしていましたが、もう、思い違いとは考えられない程、ルセット先生の波動とシュウちゃんの波動はシンクロしています。
ルセット先生の波動は、公私ともにパートナーのはずの私の波動とよりも、シュウちゃんの波動との方がきれいにシンクロしています。
とっても もやもやしています。
相手が女性だったなら、思いっきり焼き餅を焼くこともできたのに。
よりによって、どうしてシュウちゃんと……。
いらないことばかり考えてしまいます。
例えば、ルセット先生はきっと、公には私をパートナーにしておくだろうとか、
菓子工房ミヤマエへの引越しを考えたのは、シュウちゃんの近くに居る為だったんじゃないかとか、
もしも私が世継ぎを生んでも、それは形式上だけのものなんだろうとか……。
私は、何か適当な理由をつけて、ルセット先生やシュウちゃんとは離れた方がいいんじゃないかとか。
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