サラの日記543(この仕事、もっとじっくりやりたい)

銀菓神暦2016年9月30日

学部での教育実習最終日。
何か最終日にふさわしいことをと頭の中では色々考えていたけれど、結局何もできないままに終わってしまいました。
あっと言う間の二週間。あっと言う間の一日でした。
――この仕事、もっとじっくりやりたい――
そう思いました。

二週間の教育実習のレポートに取り組み始めました。
この教育実習も、修得単位の一部に加えてもらえるそうです。

――あれっ?――と思って耳をすましました。
遠くに、かすかに、カリンさん笛の音が聞こえます。
でも、今日の音色は明らかに、私へのメッセージではありません。
カリンさんの、心がうたっています。
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サラの日記542(「ほう。では、嫌われ役でも頑張れますか?」)

銀菓神暦2016年9月29日

学部での教育実習は明日が最終日です。
お世話になった学部生のみなさんに、何か気の利いたことはできないかな……って考えながら過ごす一日でした。

そう言えば、タツキちゃんも称号試験に合格したそうです。
銀菓神使ミロワールの誕生です。
まだ夏の名残りはあるけれど、時々顔を見せる秋の気配に、私たちの独り立ちの時が少しずつ近付いていることを感じます。

私の一番弟子、ナナちゃんは、今日もメランジェ研究室にやって来ました。
メランジェ先生はナナちゃんにこんなことを言われました。
「さて、アロゼの一番弟子にはどんな銀菓神使を目指してもらいましょうか」
ナナちゃんは元気よく答えます。
「アロゼ先生みたいにかっこいい特殊着装ができれば、どんなのでも頑張ります!」
「ほう。では、嫌われ役でも頑張れますか?」
メランジェ先生は少し意地悪な感じで訊かれました。
「嫌われ役ですかぁ……? もちろんです!」
ナナちゃんはほんの少し困惑したあと、元気よく答えました。

サラの日記541(メランジェ先生は机の引き出しから封筒を取り出すと、)

銀菓神暦2016年9月28日

気になってはいたけれど、教育実習のばたばたで確認しそびれていたことがありました。
「あの……。称号試験の結果、出ていますか?」
メランジェ先生に切り出してみました。
「あ、そうでした、そうでした。出ていますよ」
メランジェ先生は机の引き出しから封筒を取り出すと、微笑みながら手渡してくださいました。
封筒の中には、称号試験の合格通知と学部講師の内定通知が入っていました。
称号試験に合格したことよりも学部講師内定の方が気になって、内定通知を手に取って、複雑な頭のまま眺めていると、メランジェ先生はこう言ってくださいました。
「どうするかは、もちろんサラさんの自由ですが、向いていなくはないと思いますよ」
それから、研究室のドアを勢いよく開けられました。
「一番弟子がお見えのようですよ、アロゼ先生」
廊下を、こちらに向かって歩いてくる学部生が一人。
昨日の彼女です。

彼女と一時間ほど話をして、あとになって気が付きました。
メランジェ先生が「アロゼ先生」と呼んでくださったこと。
アロゼの名を、正式に、公(おおやけ)に使えるようになったのだということ。

私は、銀菓神使アロゼ。

アロゼの休憩室54「忙しくしています」

アルバイトは10月半ばまでにして、そのあとはピーナッツオーケストラシリーズ2の執筆に集中しようと思っていたのですが、
なんだかんだで年末までアルバイトすることになりました。
なので、ただいま二足のわらじ状態です(^-^;
でも、やりたくてやっていることなので頑張りますよ!
もちろん身体には十分気を付けます!(^^)!
寝込んでロスしている時間は無いのでね(^^;)

もう1つ、YouTubeに冒頭部分だけUPしている「カリンのテーマ」という曲を、12月中にはフルヴァージョンに仕上げたいなと思っています。
こちらはピーナッツオーケストラシリーズ2の進度に余裕ができそうだったらということになりますが……。

さて、急に忙しくなっちゃった私、どうなるかな?

サラの日記540(半分はにかんで、半分笑っています。)

銀菓神暦2016年9月27日

放課後、メランジェ研究室で今日の報告とまとめをやっていたら、学部生のあの子が訪ねて来ました。
「サラ先生。特殊着装、見せてもらいに来ちゃいました」
半分はにかんで、半分笑っています。
メランジェ先生が「どうぞ行っておいで」という視線を送ってくださったので、彼女と屋上に上がりました。

彼女が、特殊着装の口元に手を伸ばします。
「サラ先生。触ってもいいですか?」
「うん。どうぞ」
「苦しいんですか? これで横笛吹くの」
「ううん。息は苦しくないの。指は動かしにくくなるけどね。着装でお菓子を作るのと同じぐらいには」
「着装でお菓子を作るのって動きにくいんですか?」
「大丈夫よ。歴代の院生はみんなやってるんだから」

そのあと、空が暗くなり始めるまで、彼女は私の横笛に、心地良さそうに耳を傾けてくれていました。

サラの日記539(色々考えてばかりいないで頑張ろう!)

銀菓神暦2016年9月26日

「さぁ! 色々考えてばかりいないで頑張ろう!」と思いながら教壇に立った今朝でした。

自分が学部生だった頃のことを思い返してみます。
まだ外の世界のことを、今以上になんにも知らなくて、大学の中で起こることと菓子工房ミヤマエの中で起こることが世界の全てでした。
院に上がったばかりの頃、もしも過去に戻れるのなら、学部時代にもっと視野を広く持って、外の世界を色々と見ておけばいいと伝えたい気持ちになったことがあります。
自分自身が過去に戻ることはできないけれど、あの頃の私と同じ時代を生きている、今のこの学部生のみなさんに、そういうことを少しでも伝えられたらと思っています。
でも、理想と現実は違う。
もっと細かい授業計画を立てないと、伝えたいことを思うように伝えられないままに終わってしまいそうです。

サラの日記538(最初はすぐに反応できなかった)

銀菓神暦2016年9月25日

長いようで、過ぎてしまえばあっと言う間の一週間でした。
最初はすぐに反応できなかった、「サラ先生」と呼ばれることにも、少しずつ慣れてきました。

今日は「サラ先生」になって初めてのお休みですが、頭の中は明日からもう一週間続く教育実習のことでいっぱいです。
もしもこのまま学部の講師になる道を選んだら、こんな感じの毎日がずっと続くのかと思うと、ちょっと不安です。
自分から人に何かを仕掛けるってことは、受け身でいることよりも、ずっとずっと力が要るし、ずっとずっと疲れます。

今さらですが、ルセット先生を尊敬します。
研究生の指導をしながら公務もこなして、菓子工房ミヤマエの手伝いにも参加してくださって。
こうやって文字にして分類してしまえば、たかだか三つの仕事ってことになるのかもしれないけれど、その一つ一つはどれも責任ある複雑な仕事で。

やっぱり私には複数の仕事を掛け持ちっていうのは無理なのじゃないかなって思ってしまいます。
じゃあ、どれを優先させる?

学部生のみなさんには、こんな頼りない先生でごめんなさいって思ってしまいます。

サラの日記537(そうだったそうだったと思い出させてもらえるんです)

銀菓神暦2016年9月24日

今日は学部での講義は無かったので、院の方で、今日までの教育実習のまとめや、自分の研究をまとめて過ごしました。
メランジェ先生に訊かれました。
「どうですか? 学部の方は」
「みんな透き通っていて、ひと言ひと言、これでいいのかなって半信半疑でしゃべている感じです」
「そうですか。その気持ちを大切にされるといいですよ。どの仕事を選ぶにしてもね」
「はい」
「私ぐらいの歳になると、大切にしているつもりでも、うっかり忘れてしまっていることがあるんですよ。サラさんのように、新しい経験をした人たちの、その時々の話を聞くことで、そうだったそうだったと思い出させてもらえるんです」

メランジェ先生のそんな話を聞いて、自分がメランジェ先生ぐらいの歳になった時、メランジェ先生のように謙虚でいられるかな? 謙虚でいたいなと思いました。

サラの日記536(放課後、学部生さんに呼び止められました。)

銀菓神暦2016年9月23日

「サラ先生ーっ!」
放課後、学部生さんに呼び止められました。
「サラ先生って特殊着装の笛の人ですよねぇ?」
「うん。あっ!」
その学部生さんは、夏の院の紹介イベントのあと、ルセット研究室やメランジェ研究室を訪ねてきた子でした。
私が「あっ!」と思った様子に、嬉しそうに笑っていました。
「サラ先生はここの先生になるんですか?」
「うーん、どうかなぁ。まだ考え中なの」
「えーっ。違うんですかぁ?」
返事に困っていると、彼女は続けました。
「ねぇ、サラ先生。特殊着装、見たいなぁ……」
「ごめんね、今ここではだめなの。学部の棟では着装禁止なの。また院に遊びに来て」
「えっ? また遊びに行ってもいんですかぁ? やったぁ!」

サラの日記535(ケークサレと呼ばれる食事用ケーキです。)

銀菓神暦2016年9月22日

今日も製菓室はカトルカールの焼ける匂いでいっぱいです。
でも、毎日毎日カトルカールばかりでは飽きてしまうので、ハーブや塩を使って変化をもたせたものも作ってみることにしました。
ケークサレと呼ばれる食事用ケーキです。
試食時間がお昼頃になるように設定。

ハーブの調達はジャックさんに応援をお願いしました。
ジャックさん、年下のかわいい女学生たちに囲まれて、ちょっぴり嬉しそうです。
私は、そんなジャックさんの耳元にささやきます。
「ゾエさんやタツキちゃんのことをお忘れなく」
「分かってるよ、サラ先生っ。もう……」

サラの日記534(古典製菓の技術としてこれを修得するのは、意外に大変な事なのです。)

銀菓神暦2016年9月21日

昨日と同じカトルカールを、昨日と同じ処方箋で作る実習をしました。
いつでも安定したできあがりになるための練習です。

趣味の製菓なら、昨日の製品と今日の製品が違うことはそれほど問題ではありません。
でも、私たちは銀菓神使のたまご。
趣味の域のままで満足していたのではだめなのです。

多少の違いは仕方がないところもありますが、昨日とっても膨れていた商品が、今日はぺしゃんこの商品というのでは困ります。
製造機器に頼ることなく、古典製菓の技術としてこれを修得するのは、意外に大変な事なのです。

焼き上がったカトルカールを、昨日の記録と見比べ、食べ比べます。
学部生たちの一喜一憂する声が、実習室に広がります。

サラの日記533(この仕事をしていればよくある程度のものでした。)

銀菓神暦2016年9月20日

教育実習二日目。
昨夜から今日のお昼頃に掛けては大雨でした。
少し肌寒くて、焼き上がるお菓子の温もりに暖を取ろうとする学部生さんたち。
「やけどしないでねー!」
注意を促すと、あちらこちらから「はーい!」と元気な返事が聞こえてきます。
でも、どこの世界にも、やっちゃう子は居るんです。
返事の代わりに、手を後ろに隠して、顔を赤くして、下を向いた子。
「やっちゃった?」
声を掛けると、恥ずかしそうに小さくうなずきました。
「手、貸してみて」
差し出された手には軽いやけど。この仕事をしていれば、よくある程度のものでした。
水で冷やした後、癒しのアロゼを掛けます。
「大丈夫よ。よくあることだわ」
私は彼女に、小さなやけどだらけの自分の腕を見せました。
彼女はにっこり微笑んで、作業に戻っていきました。

サラの日記532(指導してしまってもいいのかな……)

銀菓神暦2016年9月19日

学部生のみなさんの視線は真っ直ぐで、私みたいに未熟な仮称号の銀菓神使が、教育実習とはいえ、指導してしまってもいいのかな……ととまどうほどでした。

途中で言葉に詰まっても、うっかり手順を間違えても、申し訳ないぐらい真剣に聞いてくれていました。
年齢にして、たった五つほどしか変わらないのに。

五つか……。
ルセット先生と私は六つ違い。
ルセット先生には、私のことが、こんな風に見えたり、こんな風に感じたりしているの?
幼くて、危なっかしくて、でも、どんな道を選ぶこともできる可能性にあふれていて……。

きっと、とっても勇気の要ることだったのに、私を見付けて、そばに置いてくれて、ありがとう。

サラの日記531(向いてるか向いていないかは周りの人たちが決めてくれる)

銀菓神暦2016年9月18日

いよいよ明日から教育実習です。
先日受け取った、先生用の白衣を点検します。
しわしわだったり、ボタンが取れていたりしたら恥ずかしいです。

初めて銀菓神使スーツでお菓子を作った時は、動きにくいし道具は持ちにくいし、色々大変だったのに、今は、白衣でのお菓子作りの方が緊張します。

今の私にできることを、一生懸命にやってみるだけです。
あとは先生方や学部生さんたちにどう感じてもらえるか。

ルセット先生はこんなことを言われました。
「心配しなくていいよ。向いてるか向いていないかは周りの人たちが決めてくれる」

アロゼの休憩室53「私の身体を使って記録していっているという感覚」

「サラの日記530」では、ルセット先生とサラちゃんが、それぞれ別の場所に居ながら、意識体での交信という手段で合奏するということを書いてみました。
これは私が用意していた展開ではなくて、ルセット先生とサラちゃんが自分たちで動いてくれたことによる展開です。
ルセット先生やサラちゃんたちが私に伝えてくれる物語を、私の身体を使って記録していっているという感覚です。
なので、これからどんなお話が待っているのか、私自身も楽しみにしているところです。

そうそう。
少し前にここにも書いていたアルバイトに行き始めました。
営業系で、人と話すこと必須の仕事です。
採用はしてもらえたけれど、実際にやってみるまでは不安でした。
でも、おしゃべりが得意かどうかということと営業系の仕事ができるかどうかということは違うんだってことが分かってきました。
確かに、おしゃべりが得意な人はお客様とたくさん おしゃべりをすることで仕事をどんどん獲得していっています。
でも、おしゃべりが苦手な私にも、それをよしとしてくれるお客様が、自分から私の方に仕事を持ってきてくださるのです。
ありがたいことに、必死につかんだお客様というのではなくて、自分から来てくださったお客様なので、キャンセル率はグンと低いです。
それぞれのやり方でいいんだってことが分かって、少し自信に繋がってきています。
思い切って一歩を踏み出してみて良かったなって思っているところです。

そんなことをしている中で、私の本業は「おはなしを書くこと」と「笛」でありたいという思いがしっかりと育ってきました。
約1か月間のアルバイト生活が終わったら、12月刊行予定の『Peanuts Orchestra シリーズ2 カンド・ナッツ・ホールのひみつ』の執筆に集中します。

サラの日記530(耳に聞こえてくるのではなく、交信の時のような感じです。)

銀菓神暦2016年9月17日

今日もメランジェ先生に模擬授業の相手をしていただきました。
「緊張しなくていいですからね」
メランジェ先生の言葉に、ゆっくり気分を落ち着けてから始められました。

模擬授業を終えて、一人でまとめをやっていると、ルセット先生の木べらギターの音が聞こえてきました。
耳に聞こえてくるのではなく、交信の時のような感じです。
その音の波動に、青紫の光の粒を感じます。
手元にあった光の西瀬忍を取り出して、その音を重ねます。
そばに居るわけではないのに、一緒に演奏しているような感覚です。

<上手だね。どうやって覚えたの?>
木べらギターの音色と一緒に、ルセット先生の声も感じます。
<今初めて。楽しそうだからやってみたくなって>
<カリンも呼ぼう>
ルセット先生の意識の一部が、カリンさんに向かっているのを感じます。
私も、意識の一部をカリンさんに向かわせます。
カリンさんからの返事はありません。
でも、嫌な感覚ではありません。

サラの日記529(目を開けると何もありません。)

銀菓神暦2016年9月16日

昨夜はなかなか寝付けませんでした。
眠りそうになる度に、目の前に青紫の光の粒が舞うのです。
カリンさんやルセット先生から感じるのと同じ光の粒です。
でも、目を開けると何もありません。

来週からの教育実習に備えて、メランジェ先生に模擬授業をみていただきました。
とっても緊張して、息をちゃんと吐けないし、息をちゃんと吸えないし、だんだん苦しくなってきます。
厳しい表情だったメランジェ先生が急に笑い出されました。
「大丈夫、大丈夫。相手が私だから緊張するんですよね。流れはうまくできているので、学部生さんの前だったらきっと大丈夫ですよ」
その言葉で、少し緊張がほぐれました。

サラの日記528(花綵アグルム地方では、朝晩の気温が低くなりました。)

銀菓神暦2016年9月15日

ルセット先生の声が変です。
「ミシェル、のど痛い?」
「うん。ちょっとね」
花綵アグルム地方では、朝晩の気温が低くなりました。だけど昼間は真夏のような暑さ。
ルセット先生は風邪っぽい様子です。
今日炊くシロップは、ルセット先生用の特別仕様です。

夕食のあと、ジャックさんが柿の葉茶を淹れてくれました。
「この前ゾエにもらったんだ。ちょうど良かったよ」
温かいお茶がおいしい季節になってきました。
今夜は柿の葉茶でお団子をいただきながらお月見です。

サラの日記527(合格の連絡ががもらえれば、かっこいい感じになりますが、)

銀菓神暦2016年9月14日

教育実習まであと五日になりました。
来週の初めに称号試験合格の連絡ががもらえれば、かっこいい感じになりますが、不合格だった場合にはちょっと恥ずかしいかもしれません。その辺を訊いてくる学部生が居なければいいのですが、ちょっと心配です。
もしも私が学部生で、院生が教育実習に来ると聞いたら、仮称号ではなくて、ちゃんと称号を持っている人の話の方が、より一層ちゃんと聞こうと思うはずです。
あ、仮称号の人の話をちゃんと聞かないってわけではないです。「より一層」です。

というわけで、学部で教育実習の担当をしてくださる先生に、打ち合わせを兼ねたごあいさつをしてきました。
所属が銀菓神局付きで、特定の称号は持っていらっしゃらない先生でした。
マヤちゃんとルシアちゃんもこんな感じになるのかなぁ……なんて思いながら見ていました。

サラの日記526(<だめだよ、サラ。予想外の作用があったら困る>)

銀菓神暦2016年9月13日

称号試験の結果は来週中には出るはずです。
合格していたらルセット先生に秘儀を教えてもらえます。
でも……、それまでおとなしく待っていられません。
空き教室でこっそり、手刀で小さな鳥居を描いてみます。
ルセット先生のは赤い光の鳥居だったけれど、私のは白い光の鳥居です。これはいつもと一緒。
手を入れて、手に何か触れないか試してみました。
分かってはいたけれど、何も起こりません。
――じゃあ、闇の西瀬忍は?――
そう思って、こっそり持ち込んだ闇の西瀬忍を小さな音で吹いてみました。できれば透明になりたいという思いを込めて。
けれど、やっぱり何も起こりません。
と、ルセット先生から交信が入りました。ちょっと笑っています。
<だめだよ、サラ。予想外の作用があったら困る>
<予想外?>
<そ。ちゃんと教えるまで使うな>
<はーい>

サラの日記525(「いいよ。合格だったら教えよう」)

銀菓神暦2016年9月12日

やっぱり気になって仕方がありませんでした。
手刀の小さな鳥居と、姿を消せる闇の西瀬忍の波動。

「ねえ。あれ、どうなってたの?」
ルセット先生にたずねてみます。
「何?」
「鳥居から西瀬忍が出てきたのとか、透明になっちゃたのとか」
すると、ルセット先生はにやりとされました。
「知りたい?」
「うん、うん、うん……」
私は何度も首を振りながらそう言いました。
「あれはね……」
「うん」
「サラにはまだ教えられない」
「えーっ……」
「仮称号のサラにはまだ教えられない」
ルセット先生はもったいぶった笑いを浮かべています。
「じゃあ、合格だったら?」
「いいよ。合格だったら教えよう」

サラの日記524(突飛(とっぴ)なお誘いのおかげ)

銀菓神暦2016年9月11日

昨日の、ルセット先生の突飛(とっぴ)なお誘いのおかげで、学部の講師になってみるのも悪くないと思いました。
自分たちの後輩になるかもしれない人たちを育てることも、魅力的な仕事だと思えるようになりました。
でも……、そのためには、やっぱり、銀菓神使として外に出て仕事をした経験が欲しいとも思いました。
今の時点で私の中でまとまったことは、菓子工房ミヤマエの仕事と学部講師の仕事を両方やってみること。

自分が進むべき具体的な道が見えてきたことで、時間の流れがとても貴重なものに思えてきました。
公務のお手伝いと菓子工房ミヤマエの仕事のほかは、全て教育実習の準備に注いでいます。

……のつもりなんだけど、
昨日のルセット先生の、闇の西瀬忍の波動を使って透明化する技のことが、手刀で描いた小さな鳥居の使い方のことが、ちらちらと気になって仕方がありません。

サラの日記523(誰にも知られることの無い、二人だけの秘密の学部探検です。)

銀菓神暦2016年9月10日

吹っ切ったつもりでも、やっぱり何かがすっきりしません。

<今、出て来られる?>
ルセット先生からの交信です。
<うん>
返事をしながら、メランジェ研究室の外に出ました。ルセット先生が迎えに出てくれていました。

ルセット先生は黙って歩かれます。私はそれに付いて行きます。
学部の棟に着きました。
「着装して」
ルセット先生は私にそう言うと、自分も着装されました。
「……でも、ここで着装は……」
「いいから早く」
ルセット先生は周りに誰も居ないことを確認しながらそう言われます。
「う、うん……」
――いいのかな……――って思いながら着装すると、ルセット先生はその場に手刀で小さな鳥居を描かれました。その鳥居の下に右手だけ入れて、何かを取り出されました。城の自室に置いていた、闇の西瀬忍(にしせしのべ)です。
ルセット先生が闇の西瀬忍を小さく吹くと、私たちは銀菓神使スーツごと透明になりました。
「サラ、どこ?」
ルセット先生の手が私の手を捜しているのが分かりました。私もルセット先生の手をさぐって、しっかり繋ぎました。
誰にも知られることの無い、二人だけの秘密の学部探検です。
目の前に、学部生たちの、先生を意識していない状態の、のびのびと、いきいきとした姿が広がります。

サラの日記522(心の中の引き出しに、色々な感情をぐいっと押し込んで、必要なものだけを、隙間からそっと取り出します。)

銀菓神暦2016年9月9日

心の中の引き出しに、色々な感情をぐいっと押し込んで、必要なものだけを、隙間からそっと取り出します。
取り出したら、他の感情が出てきてしまわないように、引き出しをしっかりと閉め直します。
昼間はそれで大丈夫。
もう子どもじゃないんだから。
そのぐらいのコントロールは一人でできる。

でも、ちょっと考えてみる。
もしも、今のこの感情を全て自由に出し切れるとして、私はどうしたいの?
見付かるまで、目の前にあることをやってみるっていう選択肢はないの?
ううん。
あった。
やりたいことはあった。
菓子工房ミヤマエを、銀菓神使の称号保持者として発展させること。
でも、それは建て前じゃないの?

よく分かっていないのなら、今、目の前に現れた、もう一つの道を歩いてみてもいいんじゃないの?
掛け持ちしてみてもいいんじゃないの?
試しに。

サラの日記521(好きだなぁ……)

銀菓神暦2016年9月8日

研究室の窓とドアを開け放つと、少し涼しくなった風が心地良く通り過ぎて行きます。
廊下で、メランジェ先生とルセット先生が話す声が聞こえます。
壁に反響するルセット先生の声は、何か優しい音楽を聴いているような、心地良い響きです。
――好きだなぁ……――って思いながら、目を閉じて聞いていました。

不意に、誰かに背中をドンッと叩かれました。
びっくりして振り返ると、ジャックさんがいたずらっ子のような目をして、にやにやしていました。
「ごめん、ごめん。ちょっと手が当たっただけ」
ジャックさんは、にやにやしたままそんなことを言っています。
「そんなわけないでしょ? 何よ!」
開け放ったドアから声が聞こえてしまわないように、小さくジャックさんに歯向かいます。
すると、ジャックさんはさっきまでのふざけた表情を急にやめて、真剣な顔で私を見つめました。
「サラちゃん、泣いてた?」
その言葉で、一生懸命に整えようとしていた気持ちが、もう一度くずれそうになりました。
目が潤んで、鼻の頭がつーんとしてくるのを感じます。
「大丈夫。もう落ち着いたことなの」

アロゼの休憩室52「心⇒話す」

場面緘黙真っ只中だった頃に比べれば、普段の生活ではほとんどそれを意識することなく過ごせています。
でも、意識することなく過ごせているだけで、完全に治まっているわけではないってことを感じる瞬間があります。
だけど、しんどいことばかり考えていても余計にしんどくなるだけなので、「話せない」「動けない」ことを考えるのではなくて、「話せた」「動けた」を楽しむことにしています。
一番嬉しく感じる瞬間は、
心⇒一度頭の中で文章に置き換える⇒頭で置き換えた文章の通りに話す  ではなく、
心⇒話す  ができた時です。
例えば、何かにつまずいて転んだ時、一度頭の中で「痛いっ」って言おうと思わないと言えなかったことが、転んだ瞬間に「痛いっ」って言えること。ジェットコースターに乗って、「さあ、今このタイミングで『キャーッ』って叫ぼう」と思わないと叫べなかったのが、何も考えなくても「キャーッ」って叫べること。そういう瞬間が幸せだったりします。

さて、『サラの日記』の方は、私も予想していなかった展開になってきました。
最初は私が主導権を握っていたはずなのですが、今はもう、物語のキャラクターたちの動きに任せている状態です。
サラちゃん、自分の気持ちもまとまらないまま講師になっちゃうんでしょうか……。

サラの日記520(その場では、「はい」と言うしかありませんでした。)

銀菓神暦2016年9月7日

メランジェ先生に、モンテ学長の部屋に行くようにと聞きました。
行ってみると、来年度就任の学部の講師に仮登録してあるというお話でした。
びっくりしました。
私の中では、一度教育実習を経験してみてからゆっくり考えるつもりだったのに、考える間も無くそんな話になっているなんて。
心の中では色んな思いや考えが浮かんでは消え浮かんでは消えしましたが、その場では、「はい」と言うしかありませんでした。

帰宅後も頭の中はそのことでいっぱいでした。
――このまま学部の講師になってもいいのかな……。まだ何も知らないし、ほかにしたいこともあったのかもしれないのに――

「難しい顔してどうしたの?」
ルセット先生が私を覗き込んでいます。
「今日、モンテ学長から聞いたの……」
「何を?」
「……ミシェル、知ってた?」
「何を?」
「私、学部の講師に仮登録されてるんだって」
それを聞いたルセット先生の顔からは、一瞬表情が消えましたが、すぐににっこりして、こう言ってくださいました。
「よかったね。サラの実力だよ。僕は何も知らない。でも、……どうしてそんな感じなの?」
「私、全然、そんなつもりじゃなかった……」
あとはただ、自分の気持ちもまとまらないまま、涙が次から次に流れていきました。

サラの日記519(後期の受講科目を決めかねています。)

銀菓神暦2016年9月6日

後期の受講科目を決めかねています。
修了に必要なのはあと一科目なのだけど、もう少しほかのことも勉強しておきたいような……。
んー、困ったなぁ。
多分、もう二度と戻ることのない研究生生活だから、最後の半年は後悔のないように過ごしたい。
研究論文の中だけでと思っていた「波動」に関すること、科目として勉強しておこうかな。
きっと、私がこれから先よく使うことになりそうな技法の一つだから。

暑さが和らいできました。
つい先日まで暑くて熱くて大変だった鍋の前での作業が、少しやり易くなりました。

サラの日記518(今日から後期です。)

銀菓神暦2016年9月5日

今日から後期です。
院で過ごす最後の半年です。
これまでの一年半はあっと言う間だったから、それもりももっと あっと言う間に過ぎて行くんだろうな……とか思ったりしています。

「製菓実習基礎」の製品はカトルカールに決めました。
基本過ぎるかもしれないけれど、自分で処方箋を作れるようになったあとも、ずっとずっと忘れないでいて欲しいお菓子。
メランジェ先生に報告したら了承がもらえました。
近いうちに実習先の担当の先生と打ち合わせになりそうです。
で、私はこれから、焼き菓子の基本中の基本、カトルカールを、小さな子供ではなく、学部生向けの実習にするにはどうすればいいか……を考えなければなりません。

サラの日記517(「それって、婚約ってこと?」)

銀菓神暦2016年9月4日

いよいよ明日から後期が始まります。
落第するようなことがなければ、半年後には銀菓神使です。

朝早く、ジャックさんが城に戻ってきました。
半年後にゾエさんと新しく出発することを約束して。

そんな話を聞いた私の口から思わず飛び出した言葉。
「それって、婚約ってこと?」
「違うよ。気が早いよ、サラちゃん。俺たちがそうなるには、まず、サラちゃんと兄貴が落ち着いてくれないと」
ジャックさんは苦笑いしながらそう言いました。
「そうなの?」
「そうだよ。うちの父さんも、ゾエちゃんの父さんも、自分が国王であるうちはそんなこと許さないに決まってるじゃん」
――そっかぁ……。そうよねぇ……――と、ぼんやりしている私の頭を、ルセット先生が指先でつつきました。
「頼むよ、僕のパートナー」

サラの日記516(教育実習の準備を始めました。)

銀菓神暦2016年9月3日

教育実習の準備を始めました。
「製菓実習基礎」で作る製品は私が決めるのだそうで、何にしようか思案中です。
珍しいものを作って学生さんに喜んでもらうっていうのもいいけど、表面の華やかさだけではなくて、お菓子の基本を見直せるものがいいなと思っているところです。
学部生の「製菓実習基礎」ってことは、まだお菓子作りに慣れていない人も居るはず。で、お菓子の道を進むことに自信を無くしている人も居るはず。そういう人にも、お菓子の道は深くて面白くて、大変なこともあるけど、でも、頑張れば難しいことではないかもって感じてもらえるものにしたいな……。

そう言えば、学部での教育実習には、院とは違った規則があるんです。
銀菓神使スーツの着装禁止。
私、院に入学するまで院の行事に参加したことなかったし、
だから学部の敷地内で着装した先生や先輩を見掛けることがなかったんだ。
着装禁止の規則は、学部生の興味関心がそれだけに偏ら(かたよら)ないようにするためだとか。
学部の先生方は、緊急出動の際、学生の居ないところで着装してるってことなのかな?
いつでもどこでも着装可能な院に慣れてしまった今となっては、ちょっと不思議な世界。
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