アロゼの休憩室39「ゴールデンウィークです。」

ゴールデンウィークです。
我が家はこの時期、家庭訪問用の片付けや掃除でてんてこまいです。
年末の大掃除は寒いのでせず、家庭訪問用の掃除が年に一度の大掃除になっています。
毎年、片付けや掃除が終わったあと、「今年は1年間これを保とう!」と思うのですが、
保たれたことは一度もありません(;^ω^)

先日、変な夢を見ました。
藁(わら)まみれになっているプラグをコンセントに差し込んだら感電した夢です。
ビリっ!!!っとなって目が覚めました。
現実だったら死んでます。
なんだったんだろう……。

『サラの日記』では、陰陽五行の技についての難しいお話が続いていますが、
分かれば面白い話だと思うので、良ければしばらくお付き合いください。
え? 分からないし、面白くもない?
では、いつ面白くなるのかを監視していてください(^_-)-☆

サラの日記390(なぜルセット先生の得意な色が「赤の火(か)」で、なぜ私の得意な色が「白の金(ごん)」なのか)

銀菓神暦2016年4月30日

陰陽五行の技で鳥居を出す練習を重ねているうちに、
なぜルセット先生の得意な色が「赤の火(か)」で、なぜ私の得意な色が「白の金(ごん)」なのかが、なんとなく分かってきました。
アロゼの特性をそのまま陰陽五行の技にぶつけると、「白の金」なのです。
「白の金」に、ルセットの特性である闇の力を少し加えると、「赤の火」が出し易くなります。

どうして、ほとんど銀菓神使の力を使えないルセット先生の闇の力を加えてみることができたかって?
それは、ルセット先生に備わっている闇の力は、ルセット先生が前世で闇の銀菓神だった頃から持っていた力だから。
現世で得た、浅い部分にあるルセットの力は使えない状態になっていても、前世から持って生まれた闇の力は、もっと奥深く、誰にも触れられない部分に存在している。

つまり、私は無理に「赤の火」を完璧にしようと思わなくていいってこと。
私が真っ直ぐに出す「白の金」に、ルセット先生の闇の力を加えればいいということ。

理屈は分かったけど……、それをどうやって実践すればいいのかは模索中。

サラの日記389(目標は、「赤の火」を確実に使えるようになること。)

銀菓神暦2016年4月29日

陰陽五行の技で、緊急用の鳥居を出す練習を繰り返しています。
磁場の乱れはまだ完全には安定していなくて、不用意に使うことはできないからです。
かと言って、いつ完全に安定するのか分からないものを、ずっと待ち続けていることもできません。

銀菓神使が陰陽五行の技で出せる鳥居は全部で5色。
青は木(もく)、赤は火(か)、黄は土(ど)、白は金(ごん)、黒は水(すい)。
ルセット先生が得意なのは「赤の火」で、私は「白の金」。
ひとつ心配なのは、鳥居を出すのは私なので、ルセット先生は自分が得意な色以外の鳥居を使わなければならなくなるということ。
銀菓神使の力を、自力ではほとんど使えないルセット先生に、自分の色ではない鳥居を問題無く使うことができるのかどうか。

ともあれ、今は練習です。
緊急の用が無い限り使わない技だから、あまり使い慣れていません。
目標は、「赤の火」を確実に使えるようになること。

サラの日記388(今朝、大広間に朝の光が差し込み始めた頃、)

銀菓神暦2016年4月28日

昨夜、マリーさんの陣痛が始まりました。
ウィルさんは部屋を追い出されて、一晩中、誰も居ない大広間をうろうろ歩き回っていらっしゃいました。
って、私がそんなウィルさんの様子を知っているのは、私もなんだか落ち着かなくて、ウィルさんと一緒に大広間をうろうろしていたからです。

こんな時、ルセット先生やジャックさんとの違いを感じます。
ルセット先生やジャックさんは、自分が動いてもどうしようもないことを、人に任せ切ってしまうことができる人。
確かに、お妃教育として、そんな話も聞かされるのだけど……。
でも、私はやっぱり だめだなぁ……。自分が動いてもどうしようもない……と言うか、医療部の方たちが、「私たちに任せて、サラ様はお休みください」と言われても、気になって気になって、ゆっくり休んでいられない。
かと言って、特に何かをしているわけではないのだけど。

今朝、大広間に朝の光が差し込み始めた頃、
ウィルさんよりも、どちらかと言えばマリーさんによく似た、丸々とした、かわいい男の子が生まれました。

講義中、睡魔との闘いだったけど、幸せな闘いでした。

サラの日記387(鳥居の中に落とし物してきただけなら、それも有りかな……。)

銀菓神暦2016年4月27日

「ねえ。……天戸(あまと)に連れてって」
私がそう言うと、ルセット先生は、読んでいた本からゆっくりと顔を上げられました。
「天戸に?」
「うん。まだ鳥居の中にルセットの力が漂っているかもしれないから……。アロゼの力と、ケンジさんに分けてもらったミエットの力を使えば、鳥居の中に漂っているルセットの力を集め直すことができるかもしれない」
ルセット先生は視線をもう一度本の方に下げて、しばらく考え込まれていました。

「……鳥居の中に落とし物してきただけなら、それも有りかな……。でも、違う気がするんだ。力を落としたんじゃなくて、力が麻痺してる……」
「だったら尚更その鳥居を調べなきゃ。力が麻痺した原因が分かれば、取り戻す方法も見付かるかもしれない」
私の言葉に、ルセット先生は、またしばらく黙り込まれました。

「鳥居の安定が確認されたら……」
ルセット先生は、ゆっくりそう言いながら私の目を覗き込まれました。
私は微笑みながら、首を縦に振りました。

サラの日記386(「いいよ。吹いてて。その方が落ち着く」)

銀菓神暦2016年4月26日

夕食のあと、ルセット先生は黙って部屋を出られました。
どこに行くのか気になって、私も後を付いて行きました。
屋上の小屋に入って、瞑想を始められました。
私はルセット先生の隣で、少しだけ西瀬忍(にしせしのべ)の音を出しました。
「邪魔?」
ルセット先生は目を閉じたまま、にっこりして、ゆっくり首を横に振られました。
「いいよ。吹いてて。その方が落ち着く」

気の利いた言葉を掛けられたら……とも思いましたが、何も思い付けませんでした。
思い付けなくて良かったとも思いました。
どんな言葉を掛けても、きっと、今のルセット先生には、苦しみの種になってしまうばかりだから。

サラの日記385(<う、……うん。進化したみたいでいいんじゃない?>)

銀菓神暦2016年4月25日

ルセット先生が鳥居を使わずに、何日も掛けて天戸(あまと)から帰って来たこと。構内の鳥居は未だ(いまだ)使用禁止中だから、その本当の理由を疑う人はいませんでした。

早速ルセット先生から、助けを求める交信がありました。
<サラ? 着装、手伝ってくれないかな。製菓室に入れないんだ>
でも、ちょっと意地悪してみたくもなったり……。
<えーっ。着装せずに入ってる時もあるじゃない……>
<そんなこと言わないでよ。新入生に悪い手本を見せられないだろ?>
<大丈夫よ。こっちの棟には新入生は来ないわよ>
<……>
ルセット先生が黙り込んでしまいました。
私の頭の中に、ツグミさんのことがよぎります。

<分かった。今、同期させるから、ちゃんと受けてね>
<うん……>

しばらくして、再びルセット先生から。
<着装はできたんだけどさ……>
<うん。ん?>
<首元だけ、アロゼなんだ……>
ルセット先生はイメージを送ってこられました。
ルセット先生の銀菓神使スーツは黒が基調。でも、首元だけ白になっちゃっていました。

<どう思う?>
ルセット先生の神妙な声。
<う、……うん。進化したみたいでいいんじゃない?>

サラの日記384(銀菓神使の基本の力であるはずの、陰陽五行の技も使えない。)

銀菓神暦2016年4月24日

研究室はお休み。
時間のある限り、私の体力の続く限り、ルセット先生に癒しのアロゼを掛けていました。
そうすることしか思い付きませんでした。

色々試してみました。
今のルセット先生が使える銀菓神使の力は、私と交信することだけだということが分かりました。
銀菓神使の基本の力であるはずの、陰陽五行の技も使えない。
でも、力を完全に失っているわけではないから、パートナーであるアロゼの力と同期化させて、ルセットの力であるかのように見せかけることは可能だということも分かりました。
私が外から同期化させることも可能だけど、ルセット先生の中にある私の意識体を優勢にするのが一番手っ取り早いかな……。
でも、ルセット先生は言われます。
「そんなことしたら、同期化が一発でばれてしまう。外から頼むよ」
「はいはい、分かりました。外から同期化させますよ」

2人とも、冗談みたいにそんなこと言ってるけど、そうでもしていないと、不安で不安でたまらないから。

サラの日記383(城の近くをこの格好でうろつけないよ)

銀菓神暦2016年4月23日

中庭で、ツグミさんがルセット先生の研究室を見上げていました。
人の気配が無いことを感じたのか、1年生の棟の方へ戻って行くのが見えました。

<近くまで帰って来たよ>
ルセット先生からの交信です。
<どこ?>
<ひどい格好になっちゃってるからさ、研究室には行かずに城の方に帰るよ。夕方には着くかな。ウィルに頼んで車を回してもらいたいんだ。目立たない方のでね。城の近くをこの格好でうろつけないよ>
ルセット先生から、待ち合わせ場所のイメージが伝わってきました。
<うん、分かった。気を付けてね>

ウィルさんと一緒に、城から10kmほど離れた森に、ルセット先生を迎えに行きました。

「ただいま、サラ。日頃、どれだけ銀菓神使の力に頼り切っていたかを思い知らされる旅だったよ」
ルセット先生はそう言って車に乗り込むと、私の肩に寄り掛かって、すぐに寝息を立て始められました。

サラの日記382(「お呼びでないこともあるのよ……」)

銀菓神暦2016年4月22日

タツキちゃんが作業しているステンレスボールに、霜が付き続けています。
タツキちゃんはそのことに気付いていないようで、ぼんやりしたままです。

「ねえ、タツキちゃん。ねえ。これ、このままでいいの? ねえ」
私はタツキちゃんの腕を肘でつつきました。
タツキちゃんは、はっとした顔をして、慌てた様子で霜を払いのけました。
「あーあ、やっちゃったぁ。またやり直し……」
タツキちゃんは作業をやり直す準備を始めます。

「どうした、どうした?」
ジャックさんが覗きに来ました。
タツキちゃんは大きく息を吸い込んで、深いため息をつきました。
「鳥居、早く直らないかなぁ……」

私とジャックさんは顔を見合わせて、「そうか」と大きくうなずきました。
ジャックさんはタツキちゃんの肩をポンとたたくと、「そんな時のセカンド・パートナーじゃん。ねっ?」と言いながら、タツキちゃんに笑い掛けました。
タツキちゃんの表情は曇ったままです。

「お呼びでないこともあるのよ……」
私が冗談半分にジャックさんにそう言うと、タツキちゃんがクスッと笑いました。

サラの日記381(「無理に立ち向かう必要はありませんが、……逃げると辛くなりますよ」)

銀菓神暦2016年4月21日

メランジェ製菓室の窓から、
雨の中、ツグミさんが中庭をきょろきょろしながら歩いているのが見えました。
ツグミさんが私に気付いた様子なのも見えました。
ちょっと嫌な感じがしたので、急いでメランジェ研究室の準備室にもぐり込みました。

しばらくして、メランジェ先生とツグミさんの話し声が聞こえ始めました。
「ルセット先生はこちらにはいらっしゃいませんか?」
「ルセット先生はほかの附属校にご出張中ですよ。何かご用事ですかね? そのびしょ濡れを乾かしますか?」
「いえ……。失礼します」

ドアの閉まる音のあと、メランジェ先生の足音が準備室の方に近付いてきました。
準備室のドアがノックされて、メランジェ先生が入って来られました。
「無理に立ち向かう必要はありませんが、……逃げると辛くなりますよ」

アロゼの休憩室38「この物語の世界観を保てる程度に希釈したものではありますが、」

このたび熊本県熊本地方を震源とする地震で被災されたみなさまへ、心からお見舞い申し上げます。

2016年4月16日(土)未明の地震では、私の住んでいる広島県南部でも、「怖い」と感じるぐらいの揺れを感じました。
急遽『サラの日記』にも、この物語の世界観を保てる程度に希釈したものではありますが、
実際の時事に沿ったお話を取り入れることにしました。

磁場が乱れた状態の鳥居をくぐったことによって銀菓神使の力を使えなくなってしまったルセット先生と、
そんなルセット先生を護ろうとするサラちゃんのお話が始まります。

サラの日記380(<完全に、……着装できなくなった>)

銀菓神暦2016年4月20日

今朝はルセット先生からの交信で目が覚めました。
<おはよう、サラ>
<……んー。あ、……おはよう、ミシェル>
<まだ誰にも話してないよね? ……あのこと>
ルセット先生の口調から、「あのこと」というのは、’昨日私がなんとなく分かってしまったこと’のことだというのがすぐに分かりました。
<うん。話してない>
私がそう答えたあと、しばらく沈黙が続きました。

<完全に、……着装できなくなった>
ルセット先生の、低くて弱々しい声が伝わってきました。
<着装……できなく……なった?>
私はルセット先生の言葉を繰り返しながら、頭の中をフル回転させました。
ルセット先生が銀菓神使の力を使えなくなっていることは、なんとなく分かってしまっていたけれど、そこまでのダメージだっただなんて思っていませんでした。
<銀菓神局に知れたら、教官の職位を剥奪される。3か月以内に力が戻らなければ……、ルセットの称号も剥奪される>
<……何かの……。何かの間違いじゃない?! たまたま今できないだけなんじゃ……ない? 怠けててそうなったんじゃないし……。事故だし……>
<……>
<……帰って来て……。職位や称号の心配なんかしなくていいから、ただ無事に、帰って来て……>

サラの日記379(<もしも僕が今の職位を無くしたら、それでも そばに いてくれる?>)

銀菓神暦2016年4月19日

お昼休みに屋上でぼんやりしていたら、ルセット先生から交信がありました。
<ねえ、サラ>
ルセット先生の声はいつにも増して穏やかでした。
<なあに?>
<もしも僕が今の職位を無くしたら、それでも そばに いてくれる?>
<うん>
<驚いたり、問い詰めたりはしないんだね>
<うん。ミシェルがどうしてそんなこと言うのか、ちょっと分かってしまってる……>
<じゃあ、安心して遠回りコースで帰るよ。もし今、鳥居が安定が確認されても、僕には使えない>
<うん。待ってる>
<うん。じゃあね>
<あ、ちょっと待って!>
<ん?>
<癒しのアロゼを送るから。ここから届く分だけだけど>

サラの日記378(<まだ鳥居が安定しないんだ。試しにくぐってみたら少しダメージを受けた>)

銀菓神暦2016年4月18日

ルセット先生からの交信がありました。
<まだ鳥居が安定しないんだ。試しにくぐってみたら少しダメージを受けた>
<ダメージって何? 大丈夫なの?>
<ルセットの力に少し乱れが生じただけだよ。僕自身は大丈夫。でも、はっきり大丈夫だと分かるまでは使わない方がいい。周りのみんなにも伝達を頼む>
<はい>
<今、このまま天戸(あまと)で様子をみるか、遠回りをしてでも花綵(はなづな)に帰るかを検討中なんだ。決まったら また連絡するよ>
<はい。気を付けてね>

鳥居の件、メランジェ先生とモンテ学長にお願いして、学部生や研究生への連絡を徹底していただきました。
構内の全鳥居が使用禁止になりました。

サラの日記377(昨夜遅くになって、ルセット先生の意識体との交信が繋がりました。)

銀菓神暦2016年4月17日

昨夜遅くになって、ルセット先生の意識体との交信が繋がりました。
<……サラ? 聞こえる?>
<うん。聞こえる>
<鳥居がまだ使えないんだ。今夜は天戸(あまと)で過ごすよ>
<うん。大丈夫なの?>
<大丈夫だよ。僕と同じような境遇の教官が、ほかにも何人かいるし>
<うん。じゃあ、気を付けてね>
<サラもね。あ、僕の研究室はどうなってる?>
<大丈夫。今日は、マヤちゃんもルシアちゃんも、メランジェ先生のところに来てたよ>
<そっか。じゃ、……安心……だ……ね……>
ルセット先生からの交信に、少し雑音が混ざって、何も聞こえなくなりました。

今日は研究室がお休みなので、花綵(はなづな)アグルム城で過ごしています。
ルセット先生との交信は、昨夜のを最後に、また繋がらないままです。

ルセット先生と離れ離れになったままなのは不安だけど、
城にも、研究室にも誰かが居るし、独りじゃないから大丈夫。

サラの日記376(私たちの暮らす五次元時空間の花綵(はなづな)区域でも、磁場の乱れが起こっています。)

銀菓神暦2016年4月16日

四次元時空間の花綵(はなづな)区域で地震が数多く発生しています。
その影響か、私たちの暮らす五次元時空間の花綵(はなづな)区域でも、磁場の乱れが起こっています。
鳥居を使っての移動が不能になってしまっています。
ルセット先生は今朝、鳥居が使える瞬間を狙って天戸(あまと)キャンパスの方に出勤されたのですが、
その後の連絡は取れていません。
意識体での交信も、磁場の乱れの影響でうまくつながらなくて、いつこちらに戻って来られるのかも不明です。

今日は、ルセット研究室のマヤちゃんとルシアちゃんもメランジェ研究室にやって来て、みんなで固まって過ごしました。

サラの日記375(生のキウイが平気な人には、折角の美味しいキウイを……って食べ方らしい。)

銀菓神暦2016年4月15日

メランジェ研究室でキウイのゼリーを作りました。

そのまま食べても もちろん美味しいんだけど、そのままだと、食べた時に喉に違和感があるんです。
軽いアレルギーか、たんぱく質分解酵素に敏感なのか……。

私の場合、一度火に掛けると、喉の違和感無く、美味しく食べられます。

ジャムにしても良かったんだけど、
ジャムだと「フルーツを食べた」って気持ちにならないでしょ?
それに、一度にたくさんは食べられない。

だから、極薄いシロップの中で、ひと口大にカットしたキウイを硬さが残る程度に炊いて、ゼリー固めに。
食べた時の喉の違和感も無くなるし、「フルーツ」って感じも残ってる。

生のキウイが平気な人には、折角の美味しいキウイを……って食べ方らしい。

でも、
私はたまたま、自分の身体の都合でこんなことをしているのだけど、
こういうことを考えるのも銀菓神使の仕事の1つだよねって、今日、思いました。

サラの日記374(どうして、取られちゃうんじゃないかって思ってしまうんだろう。)

銀菓神暦2016年4月14日

メランジェ研究室から出ようとして、ドアに手を掛けた、まさにその時、
廊下で、「ルセット先生……」とツグミさんらしき、ん、多分ツグミさんの声が聞こえました。

――どうして入学してきたばかりの1年生が2年生専属の教官を訪ねて来るの? しかも、直接研究室に。自分の指導教官のところでおとなしくしていればいいのに……――
半分疑問、半分焼き餅です。

「あれ? 行かないの?」
背後でジャックさんの声がします。
「ん? うん。ちょっとやること思い出した」
私はドアから手を離し、テーブルの上に実験ノートを開きました。
本当はやることなんて無かったのだけど。

マヤちゃんやルシアちゃんがルセット先生の研究室生だってことにはなんの焼き餅も焼かないのに、
どうしてツグミさんにはそう思えないんだろう……。
どうして、取られちゃうんじゃないかって思ってしまうんだろう。

サラの日記373(なってしまった……のではなく、してしまっているのかな……。)

銀菓神暦2016年4月13日

ツグミさんからのあの言葉以来、私の大学院構内での居場所が小さく狭くなってしまいました。
なってしまった……のではなく、してしまっているのかな……。
2年生の棟から出ることにとっても抵抗があって、
植物館や図書館への移動は抜け道を使っています。
お昼は、2年生の棟をうろうろしてみて、誰も居ない部屋を見付けて、そこで過ごしています。
私、正式に保護されている立場なわけだし、
そんなに こそこそするようなことをしなくても……と思ったりもするのだけど、
心がそんな風に動いてしまいます。

サラの日記372(2年次前期の履修登録を済ませました。)

銀菓神暦2016年4月12日

締め切りは今週末までなのだけど、
そんなに時間を掛けて考えるほどのことでもないし、
2年次前期の履修登録を済ませました。

今期は、
・高等銀菓神装
・銀菓神祭式行事作法
・専門研究1
の3科目です。

1年生の頃と比べると、科目数はぐんと少ないのだけど、
1年生の時には「これを勉強しなさい」と決められた受講科目の合間にしていればよかった専門研究を、
今度は自主的に進めることが主軸なので、
ぼんやりしていると時間が足りなくなってしましそうです。

どうやら私の専門研究の中心は、「お菓子な笛の波動について」ってことになりそうです。
きっかけは、去年ルセット先生に突然持たされた のし棒横笛。それから西瀬忍。
もちろんその基礎には、アロゼの専門分野であるシロップがあるのだけど。

サラの日記371(研究生と談笑なんて、ルセット先生には日常のこと。)

銀菓神暦2016年4月11日

またツグミさんにばったり会ったりしたら嫌だなぁ……なんて思ってしまって、
今日は2年生の棟から1歩も外に出ていません。
でも、ずっとメランジェ研究室にこもっていると、またジャックさんに心配させてしまうだろうから、
お昼休みは屋上に上がってみました。
そしたら……、
見えてしまいました。
中庭を歩いていたルセット先生をツグミさんが呼び止めて、
2人でベンチに座って、和やかな雰囲気で談笑している様子が。
――何を話しているんだろう……――
一瞬、私の中のルセット先生の意識体を通して2人の会話を読み取ろうかとも思いましたが、
やっぱりやめておきました。
研究生と談笑なんて、ルセット先生には日常のこと。
そう。今までだって、何度も何度も経験してきたこと。
相手がツグミさんだから気になってしまうだけ。
気にしなくても大丈夫。

アロゼの休憩室37「かなり久しぶりなのに当たり前のような感覚の再会」

先日、表題のような感覚で目が覚めました。
私が人生の岐路に立っていたり何かを不安に思ったりしている時にだけ夢の中に出て来てくれる人と、
かなり久しぶりなのに当たり前のような感覚の再会をしました。
目が覚めるまで、それが夢だとは気づかないぐらいの、自然な日常の夢でした。
偶然、私の誕生日でした。
温かい安心感に包まれて目覚めることができました。
ありがとうございます。
次に会えるのはいつのことになるのか分かりませんが、
その時まで私なりに頑張ります。

サラの日記370(「サラにはもう、僕の不良な波動が馴染んでしまってるからね」)

銀菓神暦2016年4月10日

新学期になって初めての休日。
ルセット先生と一緒に銀菓宝果の見回りに出掛けました。
よく見ると、小さなつぼみができ始めています。

「サラに付き添えるのはあと何回かな……」
ルセット先生がぽつりとそんなことを言われました。
「付き添える……?」
「うん。サラが正式にアロゼの称号を取ったら、これはサラにしかできない仕事になるからね」
「私みたいなのでいいのかな……」
「大丈夫だよ。最初はみんなそう。僕だって、7年前は、僕なんかが教官になってもいいのかな……って思ったりしてたよ」
「どうしたら大丈夫になれた?」
「……まだ大丈夫にはなれてないかなぁ。とにかく目の前のものをこなしてるだけ。……でも、サラなら、僕よりもうちょっとましな仕事ができるようになるよ、きっと」
「えーっ。『もうちょっとまし』って、『まし』ってどういう意味?」
私がほっぺを膨らませてそう言うと、ルセット先生はくすっと笑って、私のほっぺをつつかれました。
「サラにはもう、僕の不良な波動が馴染んでしまってるからね」

サラの日記369(ジャックさんは、それ以上のことは追求せずにいてくれました。)

銀菓神暦2016年4月9日

昨日のツグミさんの言葉が、頭の中をぐるぐる回っています。
幸い(?)、4月からの所属の研究室はメランジェ先生のところなので、構内でルセット先生との接触を避けることは難しくはありません。
構内でのルセット先生との接触は、しばらくの間、必要最低限にすることにしました。

ジャックさんが私の顔を覗き込みます。
「サラちゃん、また兄貴となんかあった?」
「ううん。……ん?」
「ならいいんだけど……。今日、ここに こもったまんまじゃない?」
「あ……。ん。ミシェルは関係ないの」
「ん? じゃあ、ケンジの奴?」
「ううん、ううん。ケンジさんは全っん然関係ない」
私は慌てて首を何度も左右に振りました。
「そっかぁ……。ま、気が向いたら話してよ」
ジャックさんは、それ以上のことは追求せずにいてくれました。

サラの日記368(ツグミさんはすたすたと1年生の棟の方へと行ってしまいました。)

銀菓神暦2016年4月8日

お昼休みの中庭。
私の前に、両手を広げて立ちふさがっている女の子が居ます。
「2年生のサラさんですよね?!」
「はい……」
「私、1年のツグミと言いますけど! サラさんって教官と婚約なさってるんですよね?!」
「はい……」
「ほかの方たちは容認していらっしゃるのかもしれませんが、私は反対ですから!」
「えっ、あの……」
突然のことに驚いている間に、ツグミさんはすたすたと1年生の棟の方へと行ってしまいました。

放課後、モンテ学長の部屋を訪ねました。
「教官と研究生が婚約しているっていうのは、本当はいけないことなんでしょうか……」
「おや、どうかされましたか? サラさん」
「……今日、1年生の女の子に言われたんです。『ほかの方たちは容認していらっしゃるのかもしれませんが、私は反対ですから!』って」
「……んー。まあ、あなた方の場合は、ルセット先生のプライベートでのお立場があるので、特別と言えば特別なんですがね……。そんなことを言ってくる人がいるとは。元気の良いことで……」
モンテ先生はハッハッハ……と声を立てて笑われました。

サラの日記367(2年生は始業式、1年生は入学式でした。)

銀菓神暦2016年4月7日

私たち2年生は始業式、1年生は入学式でした。
あいにくの雨で、式の後はみんなそれぞれの研究室に散っていったので、新入生との交流は明日以降のお楽しみです。

さて、2年前期の科目、どれを受講しようかな……。

あっ、そう言えば、銀菓宝果を飾るのは卒業式の時だけだってことが今日分かりました。
簡単に新入生に見せられるようなものではないくらいに大切なものなのです。

メランジェ先生に、結晶化シロップの横笛を見ていただきました。
「夏休みには正式な称号が取れそうですね」
メランジェ先生はそう言ってくださいました。

サラの日記366(でも、私はそこが気に入ってる。お菓子ってそういうものだから)

銀菓神暦2016年4月6日

明日から2年生。
今日は1日掛けて道具の手入れをしました。
屋上に木べらを干しました。
乾くのを待っている間、小屋で休んでいたら、ルセット先生も屋上に上がって来られました。

「春休みに見せられるように、って開発していたものがあるの」
「何?」

手の届く範囲に漂っている、シロップの素になる粒子を結晶化させるイメージで空中に手をかざすと、
結晶化したシロップの横笛が現れました。
今日の気分を音にして流します。

やがて、結晶化したシロップの横笛は、光の粒になって消えていきました。

「吹くと4、5分しかもたないの。でも、私はそこが気に入ってる。お菓子ってそういうものだから」
「いいのができたね。……サラが、自分の手でつかんだ技だね」
ルセット先生は、光の粒が消えていったそのあとを、ゆったりと穏やかな表情で、いつまでも見詰めていらっしゃいました。

サラの日記365(「ジャックがノックもせずに入ってくるのが悪いんだよ」)

銀菓神暦2016年4月5日

久しぶりに、隣にルセット先生の温もりを感じながら朝を迎えました。
ベッドに横たわったまま、ただお互いの顔を見つめていました。

「よく眠れた?」
私の目を見つめたままのルセット先生の指が、私の髪をゆっくり撫でます。
ルセット先生の意識体が、私の意識体を包み込みます。

「こっちも……」
私は、ルセット先生の唇に、自分の唇を押し当てました。

不意に部屋のドアが開いて、ジャックさんの声がしました。
「兄貴ーっ! ……え? あ、……ごめん」

身支度を整えて、ジャックさんと合流して、菓子工房ミヤマエの早朝作業に出掛けました。
私が実家で過ごしていた間、毎朝ジャックさんがルセット先生を起こしに来てくれていたらしくて、今朝も、私が昨夜の間に城に戻ったことを知らなかったジャックさんは、いつものようにルセット先生の部屋に来たそうなのです。

「兄貴ぃ。サラちゃんが帰ってること言っといてくれなきゃ困るよ」
「ジャックがノックもせずに入ってくるのが悪いんだよ」
「ん、まあそうだけどさ。……はぁ」

サラの日記364(「本当に殿下のところでいいの?」 母がぽつりと漏らしました。)

銀菓神暦2016年4月4日

「本当に殿下のところでいいの?」
母がぽつりと漏らしました。
「え?」
「シュウちゃん、待ってるみたいよ。……この前ね、シュウちゃんのお母さんが、『いいお話があってもシュウがうんと言わなくて……』って」

今日中に城に帰ろうと思いました。
シュウちゃんに、ちゃんとお別れを言って。

窓の外に何度も何度も目をやって、
シュウちゃんが配送から戻ってくるのを待っていました。

シュウちゃんの車に駆け寄って、降りてきたシュウちゃんの前に立ちました。
「今夜向こうに帰るから」
「うん。……次はいつ帰る?」
「今まで通り、工房の手伝いには来るけど、もうこっちには帰らない」
もっと色んなことを話したかったけど、言葉にできたのはこれだけでした。
「そっかぁ。……元気でね」
「うん。シュウちゃんも元気でね」

<ミシェル? 今夜戻るから、迎えに来てくれる?>
<うん。もういいの?>
<うん。いいの。そっちが恋しくなっちゃった……>