サラの日記177(ジャックさんは、銀菓宝果の飲み物では応急処置にしかならないほどに衰弱していました。)

銀菓神暦2015年9月30日

ジャックさんは、銀菓宝果の飲み物では応急処置にしかならないほどに衰弱していました。
ルセット先生と私は、ジャックさんのことをウィルさんとマリーさんにお願いして大学院に出掛けたのですが……。
夕方帰宅すると、ジャックさんが居なくなっていました。
お昼過ぎにお茶をした時には、ちゃんと部屋に居たらしいのですが……。

ルセット先生は屋上の鳥居に手をかざして、ジャックさんを捜されました。

ジャックさんは元のルセット先生の家のベッドで眠っていました。
「どうして?」
ルセット先生は そう言いながら銀菓神使スーツを着装すると、鳥居の中に入って行かれました。

ルセット先生に抱えられて帰って来たジャックさんは、気付け酒で目を覚ましました。
「森に入って、グラセに勝てる技を探りながら練習していたら、力を使い過ぎちまったみたいで、立てなくなったんだ。そのまま休んでたら、ゾエちゃんが……、そう、偶然ゾエちゃんが通り掛かって、……気が付いたら……ここ」
「……そうか。力が戻るまで練習は控えろ。あまり周りを心配させるな」
ルセット先生は静かにそう言うと、私の手を引いて自分の部屋に戻られました。

「サラ。……ジャックには、わずかだが、ゾエが銀菓神使の力とよく似た力を施した(ほどこした)痕跡(こんせき)が残ってる」
「ゾエさんは力を使える人なの?」
「……多分ゾエは、自分では気付いていない。一般レベルよりも少し強いだけの力だ。だけど……銀菓神使の力によく似てる」

ルセット先生が何を考えていらっしゃるのかは、だいたい想像できました。
だけど、敢えて口にはしませんでした。
多分、ルセット先生も同じだと……。

サラの日記176(研究室に戻って来られたメランジェ先生の顔を見たら、何かがほっとしました。)

銀菓神暦2015年9月29日

放課後、植物館に寄ってみたら、先客が……。
ジャックさんとタツキちゃんが しゃがみ込んで話しているのが見えました。
気付かれないように そーっと出て、メランジェ先生の研究室を訪ねました。
なんだか、今日の居場所は ここしかない。
メランジェ先生は いらっしゃらなかったのですが、鍵は開けてくださっていたので、中に入って ぼんやりしていました。
ぼんやりはしているけど、頭の中はジャックさんとタツキちゃんのことでいっぱい。
ぼんやりしたいけど、ぼんやりできない。

「おやっ、サラさん。放課後にここなんて、めずらしいですね」
研究室に戻って来られたメランジェ先生の顔を見たら、何かがほっとしました。
メランジェ先生はお茶を淹れてくださいました。
波打つお茶の表面を見詰めながら、メランジェ先生がおっしゃいました。
「なるほど。この波紋からすると……、サラさん、何かお困りですね」
メランジェ先生って勝手にそんなこと見ちゃうんだ……って、少し戸惑ったけれど、メランジェ先生になら打ち明けてもいいかなって思って、うなずいてみました。
「私がルセット先生とパートナーの契りを結んだ時には何も悩まなかったんですけど、気が付いたら、周りの人たちのパートナー組みのことに巻き込まれてしまってて……」
「そう言えば、今度の研究生たちも そんな時期になりましたか……」
メランジェ先生は そう言いながら天井を見上げられました。

「あの……。もしも波動の合わない者同士がパートナーを組んだら、やっぱりうまくいかないんでしょうか」
「んー、そうですねぇ……。銀菓神使としての力が弱まったり、使えるはずの技が使えなかったり……といったことはあるでしょうね。ただ、……波動が合う者同士ならうまくいく……とも限りませんからね。毎回難しいんですよ。回避のために、慣習のパートナーが欠番である称号を選ぶ人もいます。6年前のルセット先生のようにね。……ところで、誰と誰が?」
「タツキさんをめぐって、ジャックさんとグラセさんが……」

メランジェ先生はお茶のお代わりを注がれました。
メランジェ先生は、また、お茶の波紋を読まれているようでした。
「……大丈夫ですよ、サラさん。彼らは本当は分かっています。けじめをつけるための儀式のようなことをやっているだけですよ」
「じゃあ、誰が誰と?」
「それは彼らが決めることです。ここでは何も分からない」

<サラ? どこに居る?>
ルセット先生からメッセージが届きました。
<メランジェ先生の研究室>
<ジャックがまた倒れたんだ。連れて帰るから手伝って>

サラの日記175(タツキちゃん以外の人を見付けるために、わざと自分の気持ちをゾエさんに向けて、ゾエさんを追いかけてた?)

銀菓神暦2015年9月28日

ジャックさんとタツキちゃんの間に流れる微妙な空気。
見ているこっちの息が詰まりそう。

全然知らなかった。
ジャックさんが、そんなになる程タツキちゃんを想っていたなんて。
もしかして、パートナー候補がいるタツキちゃんを忘れるために、
タツキちゃん以外の人を見付けるために、
わざと自分の気持ちをゾエさんに向けて、ゾエさんを追いかけてた?
ジャックさんって、いつも ひょうひょうとしているから、全然気付かなかった。

放課後の構内に、タツキちゃんの姿はありませんでした。

メランジェ製菓室にでも行こうと思って廊下を歩いていたら、反対側から歩いて来ていたジャックさんが、急に力が抜けたように倒れ込むのが見えました。
駆け寄って抱き起こすと、
「昨日、力を使い過ぎたみたい……」
と、ジャックさんは力の無い笑みを浮かべて目を閉じてしまいました。
<ミシェル! ジャックさんが倒れたの! 来て!>

ルセット先生はジャックさんを抱えて研究室に連れて行くと、
「ん」
と、銀菓宝果のソースで作った飲み物が入ったグラスをジャックさんに差し出しました。
ジャックさんはグラスの中身を飲み干すと、その場のソファで眠り始めました。

ルセット先生は、ジャックさんの寝顔に目をやりながら
「グラセは研究生の頃から切れ者だったんだ。そこに6年間の現場経験を積んでる。銀菓神使にもなっていないジャックが勝てる相手じゃない。サラならどうする? 波動も合わない、力も無いやつと、自分の技を失うリスクを背負ってまで、パートナーの契りを結べるか?」
と、静かにたずねられました。
「……もし私なら……、ミシェルが今のジャックさんのような立場なら……、技を失うことよりもミシェルを失うことの方が大きいと思えたら……、結べる。ミシェルが私を選んでくれさえすれば」
私がそう答えると、
「選ばなかったら?」
と、ルセット先生は寂しそうな視線を私に向けられました。
「……置かれた場所から、ずっと想ってる。……そうするつもりだったことがある」
そう言いながらルセット先生の瞳を見つめ返すと、
ルセット先生は、唇を、私のおでこに軽く当てられました。

サラの日記174(「グラセとタツキさんを会わせるって話したら、勝手に付いてきたんだよ」)

銀菓神暦2015年9月27日

大学院はお休みでした。

午前中、銀菓神使仮称号試験を受けに銀菓神局に行ってきました。
筆記試験も実技試験も、これまでルセット先生やメランジェ先生と一緒にやってきたことそのままで大丈夫な内容でした。
学校での試験とは違って、職業としてやっていけるかどうかを試されているような試験でした。
○や×では採点できないような内容の試験だったので、どの位の点数を付けてもらえているのかは予測不能。
結果発表までおとなしく待っているしかありません。

で、問題の午後。
集合はルセット先生の研究室でした。
研究室に居たのは、ルセット先生、グラセさん、タツキちゃん、それから何故かジャックさんも……。
グラセさんは移動用の鳥居に手をかざすと、タツキちゃんの手を取られました。
ジャックさんが少し慌てた様子で、タツキちゃんのもう一方の手を取りました。
その様子を見ながら、
――そっか……。タツキちゃんは初めての鳥居か……――
なんてぼんやりしていたら、私もルセット先生に手を取られました。

鳥居を抜けると、目の前には小さな湖が広がっていました。

「どうしてジャックさんも居るの?」
小声でルセット先生にたずねました。
「グラセとタツキさんを会わせるって話したら、勝手に付いてきたんだよ」
ルセット先生も小声でした。

ルセット先生と私は、グラセさんとタツキちゃんとジャックさんが雑談している様子を、少し離れたところで見守っていました。

グラセさんが湖に手をかざして、
「タツキちゃん、来て」
と言っているのが聞こえました。
グラセさんに手を引かれたタツキちゃんは、グラセさんと一緒に湖の表面を歩き始めました。
グラセさんはジャックさんも呼ばれました。
グラセさんはタツキちゃんとジャックさんの手を引いて湖の表面を歩こうとされましたが、ジャックさんは湖の表面に立つことができないようでした。

ルセット先生がは湖の3人に目をやったまま話し始められました。
「あれ、サラのアロゼスペシャルと同じなんだ。慣習のパートナー同士で繋がっていないと使えない技……。タツキさんには、もう、ミロワールの力が目覚めてる。グラセと繋がることのできる力が目覚めてる。無理にジャックを選べば、タツキさんは技の使えない銀菓神使になってしまうかもしれない。ジャックは多分、それを試すために付いてきた。と思ったんだけど……、ん? まだ諦めてはないみたいだな……」

ジャックさんが湖の周りに生えている草に手をかざしているのが見えました。
手をかざされた草は急速に伸びて複雑に絡み合い、湖の上に橋を作りました。
ジャックさんは橋の上から手を伸ばし、タツキちゃんを橋の上に迎えました。

そんな調子でグラセさんとジャックさんの技合戦が続き、決着のつかないまま、空には星が見え始めました。

タツキちゃんが2人に何か言っているのが見えて、3人そろって私たちの方へ歩いてきました。
タツキちゃんはルセット先生に、
「今日すぐには決められないから、少し時間をもらうことにしました。でも、ありがとうございます。これでちゃんと決心できそうです」
と言って、私にも
「ありがとう」
って、にっこりしてくれました。

サラの日記173(確かめたい。 ジャックさんに確かめたい。)

銀菓神暦2015年9月26日

放課後のメランジェ製菓室。
タツキちゃんが隣りにやって来ました。
「サラちゃん。私……」
タツキちゃんの視線の先にはジャックさんがいました。
掛けてあげられるような言葉は見付からなくて、作業台の上には、練習用クリームのデコレーションケーキが、ただ着々とできあがっていきました。

何も知らないジャックさんが同じ作業台にやって来ました。
「さっすがミロワール! ナッペの跡が つやっつやじゃん!」
タツキちゃんは ちらっとジャックさんの方へ目をやっただけで、そのまま作業を続けていました。
ジャックさんは いつものように ひょうひょうと、
「あれっ? タツキちゃん、なんか元気ない?」って。
タツキちゃんは、多分、元気を精一杯振り絞って、ジャックさんに にっこり笑い掛けました。

ジャックさんって罪な人。
誰にでも人懐っこくて優しいから、免疫の無い女の子の多くは勘違いしてしまうかもしれない。
ゾエさんのこともあるのに……。
あれ? ジャックさんはゾエさんを追いかけてるってことでいいんだよね?
タツキちゃんのことは、同じ研究室の仲間だから仲良くしようとしてるんだよね?
それとも……。
えっ?
ジャックさんもタツキちゃんが気になってるなんてこと、……ないよね?
確かめたい。
ジャックさんに確かめたい。

帰宅後も、
――確かめたい……。確かめたい……――
って思いながら過ごしていたら、
<何を確かめたい?>
って、ルセット先生からメッセージが届いちゃいました。
返事をするべきかどうか迷ったけど、明日のタツキちゃんに関わることだと思ったら、思い切って打ち明けるしかありませんでした。
<ジャックさんもタツキちゃんが気になってるんじゃないかって……。確かめたい>

夕食のあと、ルセット先生は「一緒に飲まないか」って、ジャックさんを部屋に呼ばれました。
ジャックさんが部屋にやって来ると、ルセット先生はドアを閉め終わらないうちに切り出されました。
「大事なことだから単刀直入に聞く。ジャックはタツキさんをパートナーにする気はあるか?」
「えっ?」
ジャックさんは目をまん丸にして驚いていました。
ルセット先生は続けられました。
「パートナーにできないなら、タツキさんとは距離を置くんだ」
ジャックさんはテーブルの席に着いて果実酒をひと口飲むと、
「分からない……」
と小さな声で答えました。
ルセット先生は何かを考えているような表情で、首を縦に2度ほど振られました。

『分からない』って、ジャックさんも迷ってるっていうこと?
明日は仮称号試験なのに、前夜にこんなことになるなんて……。

サラの日記172(下を向いたままのタツキちゃんの身体が小刻みに震えているのが分かりました。)

銀菓神暦2015年9月25日

ルセット先生に頼まれました。
「お昼休みにタツキさんと一緒に研究室に来て」と。

タツキちゃんと一緒に研究室を訪ねると、お茶をしながらくつろいだ雰囲気のルセット先生とグラセさんがいらっしゃいました。

タツキちゃんがグラセさんに会うのは今日で2回目なのだそうです。
初めて会ったのは5月。タツキちゃんが専門分野を決めた時。
ちょっとびっくりしました。タツキちゃん、パートナーになる人のことをほとんど知らないまま専門分野を決めたの?
まあ私も、表向きには、メランジェ先生に勧められるままにアロゼに決めて、たまたまパートナーがルセット先生だったんだから、人のことは言えないんだけど……。

ルセット先生がタツキちゃんと私の分のお茶も淹れてくださったところで、グラセさんが切り出されました。
「パートナーの見極めをしたいんだ。デートしてもらえないかな」
タツキちゃんは下を向いて、返事に困っているようでした。
グラセさんはそんなタツキちゃんの様子を見て、ルセット先生に目配せすると、
「2人でっていうのがあれなら、ルセット先生とサラちゃんも一緒に」
と、付け加えられました。
タツキちゃんは黙ったままうなずきました。

ルセット先生がスケジュールを確認しながら、
「明日は通常勤務で……。んー、明後日の午後からなら大丈夫だよ。ね? サラ?」
って、私の方に視線を向けられました。
――明後日? 私、仮称号試験なんだけど……――
と思い終わるか終らないかの間に、
<午後からなら大丈夫だよね?>
と、ルセット先生が強ーい念押しのメッセージを送り付けてこられました。
「う、うん。午後からなら大丈夫」
それを聞いたグラセさんはタツキちゃんを覗き込んで、
「どこに行きたい?」
って、タツキちゃんの返事を待っていらっしゃいました。

下を向いたままのタツキちゃんの身体が小刻みに震えているのが分かりました。
「……ごめんなさい。……私、……他にパートナーになりたい人がいて……。迷ってて……」
タツキちゃんは泣いていました。
「大丈夫だよ、タツキちゃん。なんとなく分かってる。だから、タツキちゃんに見極めをして欲しいんだ。だめならだめだと見極めて欲しい。決めないと、タツキちゃんも僕も前に進めない」
グラセさんは泣いているタツキちゃんの背中に手を掛けようとして、その手前で手を止めたまま、タツキちゃんに優しく声を掛けました。
タツキちゃんは大きくうなずくと、顔を上げて、
「じゃあ、グラセさんが私を連れて行きたいところに連れてってください」
と、グラセさんを見詰めました。

サラの日記171(どうなるのかは、 グラセさんが、タツキちゃんの迷いが消えるほどに頑張れるかどうか……に掛かってくるのかな。)

銀菓神暦2015年9月24日

お昼休み、ルセット先生に研究室に呼ばれました。
行ってみるとグラセさんもいらっしゃいました。
通常の課程だと、大学院1年次の後期が終わる頃に銀菓神使の仮称号試験を受けるのですが、
もしも専門分野を変更するのなら、この時期が最後のチャンスなので、
パートナーの見極めに来られているのだそうです。
グラセさんは既に「銀菓神使グラセ」の称号を取っていらっしゃるので、
そのパートナーのミロワール候補のタツキちゃんが、このまま「銀菓神使ミロワール」の称号を目指しても大丈夫かどうかの見極めです。
一度パートナーの契りを結べば簡単には解消できないので、
私からタツキちゃんのことを聞いたルセット先生は、そのことを放っておくわけにいかなくて、グラセさんに話したそうです。

「パートナーを決めた女の子の体験談を聞きたいんだ」
グラセさんが私に聞いてこられました。
「サラちゃんは迷わなかった?」
「あの……。今知ったんです。一度パートナーの契りを結んだら簡単には解消できないってこと。だから、迷うってことを思い付かなかったっていうか、まんまとルセット先生の作戦に引っ掛かったっていうか……。あ、でも、ルセット先生は最終確認で やめてもいいって選択肢もくださったんですけど、でも、あの、解消できないって知っていても……」
「知っていても、どうだった?」
グラセさんの瞳は、一生懸命な光を放っていました。
「知っていても、……もう、……あの、……好きだったから」
もう、何を言っているんだか、恥ずかしいなぁって思いながら答えたら、一生懸命だったグラセさんの瞳がみるみる細くなって、大きく吹き出されました。
「ありがとう、サラちゃん。そうだよね。やっぱりそれが一番か」
グラセさんは私に向かって にっこりされたあと、ルセット先生に向かって、
「良かったな、ミシェル」
と微笑まれました。

グラセさんは、タツキちゃんとは仕事上のパートナーでさえいられればいいと思っていたのだそうです。プライベートな部分はあとでなんとかなると思っていたのだそうです。
だけど、同級生だったルセット先生が、最初から銀菓神使としてもプライベートでも私をパートナーに選んでいたことを知って、考えが変わって、今、ルセット先生のところに話を聞きに来ているとのことでした。

グラセさん、近いうちにタツキちゃんをデートに誘ってみるって言われていました。

実際にグラセさんと会ってみて感じました。
グラセさんとタツキちゃんは空気感がよく似てる。
タツキちゃんの気持ちさえグラセさんに戻ってくれば、2人はお似合いのパートナーだと思う。
グラセさんとタツキちゃんの空気感がぴったりなことを知ってしまった今、
ジャックさんに気持ちの傾いているタツキちゃんには言い辛いけれど、
ジャックさんの空気感はタツキちゃんとは全然違う。
合わせるのは難しいと思う。
どうなるのかは、
グラセさんが、タツキちゃんの迷いが消えるほどに頑張れるかどうか……に掛かってくるのかな。

アロゼの休憩室17「『いなばの白うさぎ』の続きの話」

こんばんは。
シルバーウィーク最終日の夜、いかがお過ごしでしょうか。

今夜は、最近、小2の娘と楽しんでいる本の紹介をしたいと思います。

心をそだてる松谷みよ子の日本の神話 [ 松谷みよ子 ]

価格:3,024円
(2015/9/22 17:18時点)
感想(51件)



これです。

娘の国語の教科書にあった『いなばの白うさぎ』。
この話には続きがあるんだよ~ってことを娘に話したら、興味津々で食いついてきました。
お値段、少し高めですが、
絵本としても、読み物としても、簡単な調べものにも使える、楽しい構成になっています。
日本書紀や古事記を読むのは敷居が高いけど、神話なら……って大人にも楽しめる本じゃないかと思います。

残念ながらこの本には、お菓子の神様、タジマモリノミコトのお話は収録されていないのですが、
豊岡観光協会さんの「とよおかステッチ」というサイトに、読み易いものがPDFで公開されています。
興味・関心のある方は是非覗いてみてください。

『銀菓神使アロゼ』は、神話を知らなくても楽しんでいただけるお話として書いていますが、知っていると より楽しんでもらえるのではないかと思い、
また、秋の夜長の読書にもいかがでしょうか……ということで、
本日は、日本の神話の本を紹介させていただきました。
(*^_^*)

サラの日記170(取り敢えず<えへっ……>って送り返しておきました。)

銀菓神暦2015年9月23日

お昼休みに なんとなく窓の外を覗いたら、中庭のベンチで、ジャックさんとタツキちゃんが楽しそうにおしゃべりしているのが見えました。
どっちが声を掛けたんだろう……。

この先どうなっていくのか分からないけれど、
今がそうなら、
それはそれでいいのかな……
なんて思いながら、その様子を眺めていました。
パートナーだとか なんだとかっていうのは また別の話として、
気軽におしゃべりできる仲間がいるっていうのは いいこと。
特に、銀菓神使という特殊で孤独な職業には、そういうのがあった方がいいと思う。

それに……、
ジャックさんとタツキちゃんの そんな様子を見ていたら、
パートナーなんていうものは、相手の色んな面を知ってから ゆっくり決めればいいことで、
何も今すぐ慌てて決めなくてもいいんじゃないかって、
そう思えたりもしてきました。

自分の意志で決めてるつもりでも、自分の意志とは関係なく、そうなるべき方向に流されていく。
と、思う。
よく分からないけど、私はそうだった。
あっと言う間に流された。

ルセット先生の研究室の窓から、知らない男の人が顔を出しているのが見えました。
しばらくすると、その人の隣りにルセット先生が並ばれたのが見えました。
2人とも、同じように窓枠に両手で頬杖をついて、中庭をぼんやりと見下ろしていました。
私に気付いたルセット先生が小さく手を挙げてくださいました。
と同時にメッセージも届きました。
<今僕の隣りに居るのがグラセ>
ルセット先生と私の様子に気付いたグラセさんが、私に向かって手を挙げてくださいました。
黒の短髪で……
――あれっ、かっこいい――
と思った次の瞬間、
ルセット先生から、やきもちの塊(かたまり)のような波動が どっと流れ込んできました。
取り敢えず<えへっ……>って送り返しておきました。

サラの日記169(ちなみに、これが銀菓神使ルセットの本業。)

銀菓神暦2015年9月22日

ルセット先生の授業に出ました。
『銀菓処方実習』。
色々心配なことはあったけど、授業が始まってしまったら、意外なほど平気でした。
パートナーとしてではなくて、ちゃんと先生に見える。

この授業は、前期に勉強した『銀菓処方学』の続編のような構成になっていて、
前期で学んだ知識を使って、実際に処方箋を書くことをやっていきます。
書いた処方箋をもとにお菓子を作って、その結果を熟考して処方箋を手直しし、手直しした処方箋をもとに作って熟考、そして手直し……。これを、自分が納得いくまで繰り返します。
というような、気の長い作業が続く授業。
ちなみに、これが銀菓神使ルセットの本業。
銀菓処方箋を作るのは、一般の製菓の処方箋を作るよりも細かい仕事。
いつも冷静で、穏やかで、途中で投げ出さない、根気のある人じゃないと きつい仕事。
ルセット先生は なんでも感覚でやってしまう人なのに、こんな細かい仕事を本業にできるなんて……。
授業では、その基礎の部分だけを勉強することになります。

でも、授業が終わってしまえば、意外なほど普通の人。
もう先生には見えない。
さすがに大学構内では言葉づかいなんかには気を遣うけど、周りは「あれ? ちゃんとしてるのね」ぐらいの反応だから、心配していたような居心地の悪さはありません。

こんな感じで過ごせるのは、銀菓神使養成機関独特なのかもしれません。
護身のために、銀菓神使はフルネームを名乗らない。
仲間同士でも、余程親しくならないとフルネームは知らない。
どこの出身でどこに住んでいるのかなんて、もちろん知らない。
プライベートなことには干渉しないのが当たり前の世界だから、必要のないことは見ないでもらえている。
それから、銀菓神使にとって大切な、パートナー探し。
これは専門分野を決めるのと同時に始まるわけだから、研究生の間に済ませる人が多い。
そんな世界だから、学則に引っかかるようなことでない限り、ある程度のことは受け入れてもらえる。

小さい頃からなんとなく銀菓神使に憧れていました。
そのうち銀菓神使を目指すようになって、
銀菓神局附属大学 花綵(はなづな)キャンパスに入学して、
大学院にも進んで、
そこで出会ったルセット先生が、
パートナーになる人で良かった。
これは、ルセット先生に掛けられた『永遠(とわ)の記憶の呪縛』の影響に導かれるままの人生を歩いてきただけなのかもしれないけれど、
自分から外の世界に飛び込むことのできない私には、この上なくラッキーなことだったと思う。

サラの日記168(じゃあ、今夜の晩ごはんがおいしかったら許す)

銀菓神暦2015年9月21日

後期の授業が本格的に始まりました。
最初の授業はモンテ学長の『銀菓神式祝詞』。
必修科目なのだけど、
なんでもかんでも感覚でやってのけちゃうルセット先生のやり方に慣れてしまっている私には面倒な科目。
本を開いただけで疲れちゃう。
でも、祝詞を知らない銀菓神使ってあり得ない。
頑張らないと……。

あれ? 必修科目ってことは、ルセット先生も勉強したってこと?
あり得ない。ルセット先生が祝詞? 絶対あり得ない。想像しただけで笑えてきちゃう。

夜、仕事から帰って来たルセット先生に、軽く叱られました。
「ぜーんぶ聞こえてたんだからね。サラが『あり得ない、あり得ない』って、ぶつぶつ ぶつぶつ思ってたの。こう見えても僕の『銀菓神式祝詞』の成績はAだったんだ。できなくてやらないことと、できるけどしないことの見分けが付かないなんて、パートナーとしてどうかと思うよ」
言われた通りだと思ったので反論するつもりは全く無かったのだけど、なんだか面白そうだから言い返してみた。
「どうかと思うような人をパートナーに仕立て上げたのはミシェルでしょ?」
ルセット先生も乗ってくれた。
「おっ、なかなか言うようになったね。じゃあ、今夜の晩ごはんがおいしかったら許す」
「やだ、何それ」

だけど、晩ごはんを食べ終わる頃には、私たちは全く別の話題で盛り上がっていました。
マリーさんのお腹に赤ちゃんがやって来た話。
マリーさんはつわりがひどいようで、
ジャックさんはしばらく休むように言ったのだけど、「いつも通り動いている方が、気が紛れて楽だから」と体調と相談しながら仕事を続けられるそうです。

赤ちゃんか……。
私も、
大学院での勉強が終わって、
銀菓神使の称号を取って、
国のことが落ち着いて、
結婚の儀を迎えて、
そしたら私も……。

今度は、この時代の人生は、次の時代に命を繋ぐことのできる人生にしたい。

サラの日記167(ルセット先生がジャックさんに提案しました。 大学院が休みの日に、私の実家の店番を手伝うことを。)

銀菓神暦2015年9月20日

大学院はお休み。

銀菓神使仮称号試験まで、あと1週間になりました。
色んなことに巻き込まれて、全然勉強できていません。

ルセット先生がジャックさんに提案しました。大学院が休みの日に、私の実家の店番を手伝うことを。
ルセット先生は、ジャックさんにゾエさんを会わせたいの?
呼び名は、ミドルネームのバジルから、バジー。
(ジャックさんのフルネームは、Jack Basile d'Agrume-Feston(ジャック・バジル・ダグルム=フェストン)。)

ルセット先生は いつものように早朝の作業だけ済ませて城に戻られましたが、私は急いで城に戻らなければならないような用事は無かったので、ジャックさんと一緒に実家に残っていました。

お昼過ぎになって、なんだか気持ちがむずむずするなぁ……って思っていたら、アグルムの聖石からも何かが伝わって来ました。
――あれ? ひょっとして……――
と思って、売り場の方をこっそり覗いてみたら、カウンターを挟んで、ジャックさんとゾエさんが いい雰囲気でおしゃべりしていました。

ゾエさんがお店を出たあと、全身で笑っているジャックさんが工房の方に走って来ました。
「サラちゃーん! 俺、ゾエちゃんに会えたよーっ!」
嬉しそうなジャックさんを見て、私も嬉しくなったけど、
ジャックさんは勢いのままに私に抱き付いてきたので、そこは びしっと振り払いました。
振り払われたことについては全く気にしていない様子のジャックさんは、勢いのままに話してくれました。
「ゾエちゃんてさ、1つ年上だったんだ。学校とかには行ってなくて、実家の仕事を手伝ってるんだってさ。あ、どんな仕事か聞かなかったなぁ。でさ、ここのジャムが大好きなんだって。だけど今日は他のお菓子も食べてみたくなったって、パウンドケーキを色々買ってったよ。そうそう、サラちゃんのこと、いい職人さんだって言ってくれてたよ。あー、でも俺、自分のことあんまり話しできなかったなぁ。もう、かわいくって かわいくって、ゾエちゃんの顔見るのに忙しくって、なんも話せなかったなぁ。あ、それからさ、……」

あーあ、こんなに嬉しそうにしているジャックさんを見てしまったら、タツキちゃんのことは当分言えない……。 

いつもなら具体的に ぐいぐい波動を伝えてくるアグルムの聖石が なんだかはっきりしないのは、私と同じ心境だからなのかもしれません。
これまで、私の中では絶対的な存在だったアグルムの聖石にも、「迷う」ってことがあるんだなぁ……って思ったら、アグルムの聖石に従うってよりも、アグルムの聖石は相棒って感覚になってきました。

サラの日記166(ルセット先生は大きく息を吸い込んで、大きく息を吐いて、力の無いほおづえをついて、 「……荒れるね」 と天井を見上げられました。)

銀菓神暦2015年9月19日

夕食のあと、本を読んでいたルセット先生にたずねてみました。
銀菓神使グラセが欠番なのかどうなのか。

「グラセがどうかしたの?」
ルセット先生は本に向かわれたまま返してくださいました。
「それが……。メランジェ研究室のタツキちゃん、知ってる?」
「タツキさん? うん、利発(りはつ)な子だよね。グラセにはお似合いだ」
ルセット先生は私の方を向かれました。
「グラセの人、いるんだ……」

私は淡い期待が散っていくような感覚だったけど、ルセット先生は急にいきいきと話し始められました。
「僕と同期だったやつ。色んな面で頭の回転が良くてさ、僕なんか、どうしても追い付けなくて……。で、グラセがどうかしたの?」
「ん、あの……」
「どうした?」
「あの……。……タツキちゃん、『ルヴィーブルにすれば良かった』って。エルブのパートナーの……」
ルセット先生の顔から、いきいきとしていた表情が消えました。視線は私の方を向いているけれど、頭の中では色んなことが超高速処理されているような表情をしていらっしゃいました。

しばらくすると、ルセット先生は大きく息を吸い込んで、大きく息を吐いて、力の無いほおづえをついて、
「……荒れるね」
と天井を見上げられました。
「だけど……」
と、ルセット先生は続けられました。
「だけど、僕が知ってる限りでは、タツキさんはルヴィーブル向きじゃないよ。
ジャックのパートナーにはいいかもしれないけど、エルブのパートナーには向いてない。
持ってる波動が違うから、ルヴィーブルを目指せば苦労する。
銀菓神使として生きるなら、タツキさんにはルヴィーブルよりもミロワールを勧める。
……どちらかと言えば……、ゾエの方がルヴィーブルの適性があるように感じる。
でも、……ゾエはプラクミーヌだ。簡単には誘えない。
それから、グラセは、やっと見付けたミロワールの候補者を、簡単にあきらめるとは思えない。
グラセは昔っから完璧主義なところがあったから、代わりのパートナーで納得するなんてことは……ないだろうな」
ルセット先生は、しばらくそのまま天井を見上げていらっしゃいました。

私、ジャックさんとゾエさんとタツキちゃんの……(もしかしたらグラセさんも……)間に入ってしまって、どうすればいいんだろう……。

サラの日記165(「私、ルヴィーブルにすれば良かった……」)

銀菓神暦2015年9月18日

1日掛けて、植物館の大掃除をしました。
夏休みの間に茂ってしまっていた雑草が無くなって、すっきりしました。

「ゾエちゃんのこと、大丈夫だった?」
ジャックさんが聞いてきてくれました。
「うん。もう大丈夫」
ジャックさんと2人で顔を見合わせて にっこりしていたら、同じメランジェ研究室のタツキちゃんがやって来ました。
夏休み前までは、あんまり目立たないってイメージの女の子だったのだけど、最近よく話し掛けてくれるようになった子。
黒髪のショートカットで、切れ長美人。
「ジャックさん、サラちゃん。なんか面白いことあったの?」

「あのね……」
しゃべろうとした私の口を、ジャックさんが慌てて手でふさぎました。
「も、もう! 草むしりした手を口にもって来ないでよ!」
ジャックさんの手を払いのける私と、それに はっとするジャックさんの様子を見て、タツキちゃんが笑い転げました。
「いいなぁ、仲良しで。私、てっきり、ジャックさんとサラちゃんはお付き合いしてるのかと思ってた」
「俺は好きだったんだけどなぁ。ふられたの。ま、エルブとアロゼじゃパートナーにはなれないしさっ、いいんだけど」
ジャックさんがおどけて そんなことを言っているのを、タツキちゃんは にこにこして見ていました。それから ぽつりと、
「私、ルヴィーブルにすれば良かった……」
って、小さな声だったけれど、確かに「ルヴィーブルにすれば良かった」って。
おどけていたジャックさんに、聞こえたかどうかは分からない。
私は、何か言ってあげた方がいいのか、聞こえなかったことにしておいてあげた方がいいのか、色々考えているうちに、結局何も言えませんでした。

タツキちゃんは銀菓神使ミロワールの候補者。慣習のパートナーは銀菓神使グラセ。
グラセか……。誰だろう、グラセ……。
グラセが欠番中なら、同じくルヴィーブルが欠番中のジャックさんと、パートナーになれないこともない。
だけど、ジャックさんはゾエさんを……。
……んーっ、もう よく分かんない。
仮称号試験まであと10日を切ってるのに、こんなことばっかり……。

サラの日記164(花綵アグルムとプラクミーヌの国交が、僕らの負の呪縛を解く鍵にもなる)

銀菓神暦2015年9月17日

ジャックさんに確認。
「もしもね、ゾエさんのこと、ルセット先生に話しちゃったら……嫌?」
「んー、兄貴にー?」
ジャックさんは少し表情を曇らせました。
「うん。だめ?」
でも、次の瞬間、ジャックさんは はっとした顔になって気付いてくれました。
「ごめん、サラちゃん。もしかして、内緒にしてもらってるせいで兄貴とうまくいってないとか?」
「ううん。う、……うん。……ちょっと ややこしくなってきちゃって」
「いいよっ! サラちゃんが困るのは俺も困るからさ、ぜーんぶ話しちゃっていいよ! ……一緒に行こっか?」
「ううん。大丈夫。自分で話せる」

夜、私の中の全てのブロックをはずして、
大学院から帰って来られたルセット先生に、駆け寄って抱き付きました。
「どうしたの? サラ?」
ルセット先生は びっくりされていましたが、すぐに優しく抱き締めてくださいました。
「ミシェルに、全部読んで欲しい」
「うん、分かった」

ルセット先生が私の意識を読んでいるのを感じて、しばらくすると、今度は私にルセット先生の意識が送り込まれてくるのを感じました。
<彼女は、ゾエは、プラクミーヌの王女だ。プラクミーヌの領地に行った時、偶然出会った。
人の手が入らなくなったミカン畑のことを心配して見に来てくれていた。
僕は銀菓神使スーツを着装していたから、ゾエは僕が花綵アグルムの王太子だということを知らない。
サラに要らない心配を掛けたくなくて黙ってた。
ジャムの仕事の件は偶然だよ。僕は何も知らなかった。
ゾエが自分自身の考えで、収穫後のミカンのことをどうにかしようとしてくれているんだろう……。
ゾエには、もうしばらくソレアのまま接して欲しい。
今僕らのことを知ったら、ゾエはサラに仕事を頼みにくくなるかもしれない。
それから、ゾエがプラクミーヌの王女だってことは、ジャックにはまだ言わないで。
……だけど、銀菓神使アロゼの光が付加されているジャムを選ぶ力を持っているゾエには、銀菓神使になれる素質があるのかもしれない。あの量じゃ、ほとんどの人は気付かない。
自然の流れの中でジャックとゾエがそうなるのなら、僕はそれでいいと思う。
だから、ジャックが先入観を持ってしまわないように、ゾエがプラクミーヌの王女だってことは伏せておいて欲しい。
それと……、
それと、ゾエは、……1000年前に僕の婚約者だった人だ。彼女にはなんの罪も無かったのに、僕が君を追ったあと、彼女には辛い思いをさせた。ゾエには1000年前の記憶は無いけど、僕に掛けられた『永遠(とわ)の記憶の呪縛』の影響を受けて、僕らと同じ銀菓神界の者として生まれ変わり、僕らと縁を持っている。……だから今度は……、今度は、僕のできることで力になりたい。今度は、……サラを絶対に離さない。歳をとって その時が来るまで、絶対にサラと生き続ける。僕らが幸せになれば、ゾエも呪縛の連鎖から解き放たれる。花綵アグルムとプラクミーヌの国交が、僕らの負の呪縛を解く鍵にもなる>

サラの日記163(ルセット先生はゾエさんのことを読まれないようにブロックを掛けてる。)

銀菓神暦2015年9月16日

ゾエさんのことばかり考えてしまいます。
ルセット先生の意識を読もうとした時に ぼんやりと見えた彼女は、本当にゾエさんなのか。
ルセット先生とゾエさんはどういう知り合いなのか。
この複雑な現実を隠したまま、ジャックさんとゾエさんの間に入っていていいのか。

意識を読み合えるのはパートナー同士だけ。
ルセット先生はゾエさんのことを読まれないようにブロックを掛けてる。
それって、明らかに、私に読ませたくないってこと。
ゾエさんって誰なの?
ゾエさんが私に仕事を依頼してきたのは偶然?
それとも、私だと知ってて近付いてきた?
そのことをルセット先生は知っているの?

ルセット先生は、私の中で色んな思いがぐるぐる回っていることを きっと知ってる。
知ってるって感じる。
だけど何も話してくれない。
どうして?
私には話せないこと?

実家の工房に居ても、学校に居ても、何をしていても そんなことばかり考えてしまう。

だからと言って、日常がぎくしゃくしているわけじゃない。
いつものように、自然な流れの中で過ぎて行く。
目に見える世界での生活は、普段と何も変わりない。

それに、ルセット先生が抱き締めてくれる時に感じる その波動は、信じざるを得ないほど温かくて優しい。

サラの日記162(ジャックさんの気持ちは明後日(あさって)の方向に飛んでいます。)

銀菓神暦2015年9月15日

朝、目が覚めたら、ルセット先生に抱き締められていました。
しばらくそのままルセット先生の顔を見詰めていたら、ルセット先生も目を覚まされました。

もしかしたら、ルセット先生は私の不安な気持ちに気付いてくれてる?
でも、やっぱり何も話してくれない。
読もうとしても、ぼんやりとしか見えない。

実家の工房で作業していたら、アグルムの聖石から、この間と同じ波動が発せられているのを感じました。
あの子が居る……。

店の方に居た母が、私を呼ぶ声が聞こえました。
ルセット先生は、いつものように無駄のない動きで作業を続けられていました。
どこの誰だか分からない人に顔を見られるのは不安だったので、作業用マスクのまま店の方へ行きました。

「はじめまして。ゾエと言います。ここのジャムが気に入って、作っている方にお会いしたくなったんです」
栗色の髪の女の子でした。
「はじめまして、ゾエさん。サ……、ソレアです。私のジャムを気に入ってくださってありがとうございます」

取り敢えずのあいさつが済んだところで、ゾエさんが本題を話し始められました。

大切な人から預かっている果樹園があるのだけれど、収穫した果実を加工できる職人が見付からなくて困っているのだそうです。
そこで、色々な製菓店の加工品を試して職人探しをしていたところ、私のジャムを気に入ってくださったのだそうです。
収穫の時期になったら、収穫した果実をここへ運び込むので、その果実を使ってのジャム作りを請け負ってくれないかという話でした。

この工房での元々の仕事に影響の無い範囲でなら、受けても構わないと返事をしました。

工房に戻ると、ルセット先生が、
「何かあったの?」
と聞いてくださいました。
「うん。新しい仕事が入ったの。今すぐのことではないみたいだけど」

学校のお昼休みに、ジャックさんに教えてあげました。
「あの子、ゾエさんっていうんだって」
「えっ? お店に来たの? ゾエちゃん? それでそれで?」
「まだそれしか分かんないけど、また会うから……」
「へえー……。ゾエちゃんか……」
ジャックさんの気持ちは明後日(あさって)の方向に飛んでいます。
本格的に講義が始まる来週には、ちゃんと現実に戻って来てね。

サラの日記161(彼女は誰? どうしてルセット先生の意識に彼女が見えるの?)

銀菓神暦2015年9月14日

昨日、ルセット先生がプラクミーヌから戻られてから、なんだか様子がおかしいんです。
自分からはプラクミーヌであったことを何も話されないし、たずねても生返事ばかりで。
この間は、プラクミーヌに行けたことを あんなに喜んでいらっしゃったのに。
何があったのか、ルセット先生の意識を読んでみようとしたけれど、ブロックされているようで、うまく読めませんでした。
だから、昨夜、ルセット先生が眠られている間に意識を読んでみました。
やっぱりブロックが掛かっていたけれど、起きていらっしゃる時よりは弱くて、ぼんやり何かが見えました。

人?
女の人?

もう少し しっかり読もうとしたら、見えてはいけないものが……。
んー、見えてもいいんだけど、見ない方がよかったのかもしれなかったものが……。
人が。
見えてしまいました。
私が実家の工房の窓から見た、あの、栗色の髪の女の子と同じ人。

彼女は誰?
どうしてルセット先生の意識に彼女が見えるの?
プラクミーヌに行ってたんじゃないの?
どこに行って、どこで彼女と会ってたの?

これ以上は読まない方がいいような気がして、
これ以上は聞かない方がいいような気がして、
今日1日、このことは心の隅っこに小さく丸めていました。

だけど、
もしかしたら、
ルセット先生は、そんな私の意識を全部読んでる?
なのに何も話してくれない?
それとも……、
ルセット先生には読めないほどにブロックできてる?

アロゼの休憩室16「アグルムの聖石(ひじりいし)⇒そして陰陽師」

今日は、アグルムの聖石について、少し書いてみることにします。

モデルになった石は、ダイヤモンドの原石とシトリンの原石です。
現実にはあり得ない話ですが、
この、ダイヤモンドの原石とシトリンの原石を足して2で割ったみたいなのを、アグルムの聖石のモデルにしています。

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それと……、
ちらっ、ちらっ、と それっぽい匂いを織り込んできたので、
『サラの日記』をここまで読んでいただいた方の中には、そろそろお気付きの方がいらっしゃるかもしれませんが、
「銀菓神使」は異次元のお菓子の世界の陰陽師です。

私たちの世界の歴史の資料によると、陰陽師は公務員だったそうですが、
サラちゃんたちの世界の銀菓神使も、「銀菓神局」という公(おおやけ)の機関に所属する公務員です。

たまたま、タイムリーなことに、この記事がupされるのは、某放送局のドラマスペシャル『陰陽師』の放送中ですね。
どさくさにまぎれて、今日は銀菓神使という職業の位置付けも書いてみました。

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陰陽師の話が出たついでに……。

元気に人生を歩いて行くためなら、
神頼みでも、石頼みでも、占いでも、風水でも、なんでもアリでいいんじゃない?
そのために、普段は できるだけ どこの型にもはまっていたくない。
というのが私の考えです。

サラの日記160(ジャックさんが捜している栗色の髪の女の子は彼女だと、直感で分かりました。)

銀菓神暦2015年9月13日

学校はお休み。
ルセット先生は、早朝の菓子工房の仕事が終わったあと、プラクミーヌに行かれました。
私は工房に残って作業していました。
まとまった注文が入っていて忙しそうだったからってこともあるけど、
急に、「ひょっとしたら あの子が来るかもしれない……」って思ったからです。

お昼過ぎ、
アグルムの聖石に語り掛けられたような気がしました。「彼女が居る……」と。
工房の窓から外を覗いてみました。
ガラス張りの部分から中の様子を見ている栗色の髪の女の子が居ましたが、お店に入って来るような様子はありませんでした。
彼女を見るのは初めてでしたが、ジャックさんが捜している栗色の髪の女の子は彼女だと、直感で分かりました。

直感で分かったのと同時に、どこかで会ったことのあるような……、会ったことというよりも、知っているような、そんな気がしました。
そんなことを考えているうちに、彼女はお店を通り過ぎて、どこかへ行ってしまいました。
彼女がどこに行くのか、工房の窓から見える範囲だけでも目で追いかけようとしましたが、彼女の後ろを歩いていた人たちの陰になってしまって、見失ってしまいまいた。

知ってる。
私、彼女を知ってる。
誰だったっけ。
どこかの学校で同級生だった子?
大学院には居ない……。
じゃあ、学部生?
会って話してみたら思い出す?
「あー! ○○ちゃんだ!」って感じに?
んー、違う。
そういうんじゃない。
でも、知ってる。

サラの日記159(ルセット先生と一緒の時には なんとも思わないのに、1人で居ると、よそのお宅におじゃましているような感覚。)

銀菓神暦2015年9月12日

ルセット先生は普段通りに大学院に出勤されましたが、私は、今日は行っても何もすることがないと分かっていたので、花綵アグルム城に残って、お妃講座の本を読んだり、仮称号の試験勉強をしたりしていました。

昼間に花綵アグルム城の部屋に1人で居るのって、落ち着かないっていうか、心細くなるっていうか……。
ルセット先生と一緒の時には なんとも思わないのに、1人で居ると、よそのお宅におじゃましているような感覚。

アグルムの聖石のペンダントをはずして、ゆっくり眺めてみました。
このペンダントが無ければ、
ルセット先生が居なければ、私はここでは よそ者。

ちょっと淋しくなっていたら、
次の瞬間、真反対のことを思い付いてしまいました。

――私はまだ、完全には ここに しばられていない――

じゃあ、出掛けてみる?
どこに行きたい?
何がしたい?

自問自答してみたけど、
「ここに しばられていない」って思えたことに安心してしまって、
結局、「ここに居よう」と思いました。

ペンダントを着けて、本に戻ろうとしたら、ドアをノックする音が聞こえて、ルセット先生が入って来られました。
「お昼だけ帰って来た」
ルセット先生の、いつもの穏やかな声を聞いたら、もう1度思いました。
――ここに居よう。1人で居ても馴染んでしまうぐらい長く――

サラの日記158(俺が、気に入った子をルヴィーブルに育てればいいってこと。)

銀菓神暦2015年9月11日

そろそろ来るんじゃないかと思っていました。
今まで来なかったことの方が、なんでだろうって感じです。

今週いっぱいは受講科目の登録期間になっていて、まだ授業は無いので、誰も居ないメランジェ製菓室で本を読んでいました。
今読んでるのは、花綵アグルムのお妃講座のあれこれ。
人前で読むのはどうかと思うけど、本格的に授業が始まったら、お妃講座に使える時間は減っちゃうだろうし、時間がある時に少しでも読み進めておきたくて、誰も居ない場所を見付けては本を開いています。
そしたら、隣りにジャックさんが座ってきて、
「ねえねえ、あの子、まだ見付かんないの?」
って。
そう! そろそろジャックさんが そう言って来るんじゃないかと思っていました。
ジャックさんも花綵アグルムの王子なのだったら、それぐらい自分の力でなんとか調べてよ……って心境だったけど、
まあ、一度引き受けちゃったことだし……。

「えーっとね……」
どこから話そうか、どこまで話そうか……と思案してる私。
「うん、うん」
わくわくしながら次の言葉を待ってるジャックさん。

「あのね、お店には来たみたいなの」
「えっ!? それで、それで?」
ジャックさんの目が、いつもの1.5倍ぐらいに大きくなりました。
「でもね、名前はまだ聞けてないみたいなの」
「……ん? まだ? じゃあ、聞けそうってこと!?」
だんだん前のめりになって、顔が近付いてくるジャックさん。
「う、うん。近いうちに会えるかもしれないって話にはなってるんだけど……」
近付くジャックさんの顔に、身を逸らす私。
「いつ? いつ会うの?」
さらに近付くジャックさん。
「あの……。近い……」
ジャックさんは、はっとした表情で姿勢を戻してくれました。
「まだ分からないの。でも、何か進展したら必ず話すから。もう少し待ってて」
「うん!」
ジャックさんは、また前のめりになりそうなのを直しながら、嬉しそうにうなずきました。

「でも……。代々の慣習のパートナーじゃなくていいの? エルブのパートナーって誰?」
ずっと引っかかっていたことを聞いてみました。
「慣習ではルヴィーブル。でも欠番中。今のところ候補者もいない。誰を選んでも俺の自由。俺が、気に入った子をルヴィーブルに育てればいいってこと。兄貴がサラちゃんにやったみたいに」
ジャックさんは勝ち誇ったような表情で、口を思いっ切り横に伸ばして、にーっと笑っていました。
なるほどね。
うん……、なるほどね。

サラの日記157(昨夜の間に銀菓神使仮称号試験の受験申込書の用意を済ませて、)

銀菓神暦2015年9月10日

昨夜の間に銀菓神使仮称号試験の受験申込書の用意を済ませて、
今日、メランジェ先生に預けました。

あと、今期の受講科目の登録も済ませました。
今期受講するのは、

銀菓神装の理論と実習
銀菓処方実習
銀菓薬膳
銀菓神学
銀菓神式祝詞(のりと)

の5科目に決めました。

「銀菓神装の理論と実習」はメランジェ先生、
「銀菓処方実習」と「銀菓薬膳」はルセット先生が担当される科目です。
「銀菓神学」と「銀菓神式祝詞(のりと)」はモンテ先生(学長先生)の科目。

この5科目のほかに、前期から引き続き、メランジェ研究室でのゼミがあります。

モンテ先生は、私たちよりも1学年上の先輩方のゼミを受け持たれています。
ここ銀菓神局附属大学 花綵(はなづな)キャンパスの大学院では、基本的に、1人の先生が2年間、単学年の研究生を受け持たれるので、先輩方と一緒に勉強する機会は ほぼありません。
だから、1学年上の先輩方を受け持たれているモンテ先生は、学長先生ではあるけれども、あまりお目に掛かることのない、謎多き先生です。
先日、婚約内定の時に初めて直接お話ししましたが、
その時から、機会があったらモンテ先生の授業を是非受けてみたいと思っていました。
授業そのものも、もちろん楽しみだけど、先輩方のことも少し耳にすることができたらな……って楽しみにしています。

サラの日記156(今はもう、苦手だとは思っていない。 自由なことは楽しい。)

銀菓神暦2015年9月9日

後期の受講科目を登録しなければなりません。
周りの研究生たちは これまで通りに接してくれているけど、ルセット先生が担当される科目は やっぱり取りにくい。
必修科目は仕方ないとして、それ以外の科目は、ルセット先生以外の先生の科目を取ろうかと、メランジェ先生のところに相談に行ってみました。

「そうですね……。サラさんが ほかの先生の科目に関心があるのなら、ほかの先生の科目を勉強されるのもいいかもしれませんね。でも、周りを気にして……ということなら、少し違うかもしれませんよ? ルセット先生は銀菓神使で、サラさんも いずれ銀菓神使になる人なのですから。自分に必要だと思うことを勉強なさったらいいんですよ。そうすることが、サラさんが銀菓神使として仕事をされるようになった時に、巡り巡って、周りの人たちのためになるんですから。今、この瞬間の状況に心を配られることも大切だとは思いますが、あまりとらわれ過ぎないようにされるのが良いと思いますよ。……私はね」
メランジェ先生がそう言ってくださったので、迷いが吹っ切れました。
担当の先生がどなたかってことは見ずに、何を知りたいか、何を勉強したいかで決めます。

やらなければならないことがもう1つ。
銀菓神局に、銀菓神使仮称号試験の受験申請。
1番早い試験日は9月27日。
それを逃すと、次の試験日は10月25日。
試験結果が分かるのは試験日から2週間後で、実際に仮称号が受けられるのは結果発表から1週間後。
メランジェ先生が9月27日で大丈夫だと勧めてくださるから、9月27日で申し込むことに決めました。

夜、仮称号試験を9月27日に受けることに決めたとルセット先生に話すと、
「サラが受かったら、一緒にしたいことがあるんだ」
と、ルセット先生は いたずらっ子のように にっこりされました。
「一緒にプラクミーヌに行くのよね?」
「うん。それもあるけど、もう1つ。でも、受かるまで内緒だよ。だから、楽しみに頑張って」
ルセット先生は さらに いたずらっ子のようなウインクをされました。

科目登録のことは……
ルセット先生には話しませんでした。
ルセット先生も、敢えて聞いてこられないような様子だし。

ルセット先生に出会う前の私は、決められた範囲の中で、与えられた条件の中で何かをするのが得意だった。
決まっていないこと、与えてもらえないことを自分でつかみに行くのは苦手だった。
だけど、ルセット先生に出会って、自分で決めなければならないことが増えた。自分でつかみに行かなければならないことも増えた。
今はもう、苦手だとは思っていない。
自由なことは楽しい。

サラの日記155(ルセット先生が銀菓神局に申請していた、銀菓神使の権限でプラクミーヌに立ち入ることの許可が出ました。)

銀菓神暦2015年9月8日

ルセット先生が銀菓神局に申請していた、果樹園の保護と管理という銀菓神使の権限でプラクミーヌに立ち入ることの許可が出ました。

夕食のあと、屋上の鳥居のところに行って、銀菓神使スーツを着装したルセット先生が、プラクミーヌの領地となったミカン畑に入って行かれるのを見守っていました。
人の気配が無いのと同時に明かりも無いし、ルセット先生の銀菓神使スーツは黒が基盤のデザインなので、木々の間に入ってしまわれると、見失ってしまいそうでした。

戻って来られたルセット先生は、
「暗くてよく見えなかったけどね、木々や青い実たちの懐かしい匂いがして、またここに来れたんだなぁって感じて、嬉しかったよ。大学院の仕事が休みの日に、今度は朝から行ってくる」
と、とってもいきいきとした表情をされていました。
「銀菓神使スーツを着装してるのに、匂いが分かるの?」
「うん。分かるよ。分かる。……いつか、サラも行ってみれば分かる」
ルセット先生はしばらくの間、鳥居の下に映したままのミカン畑を、じっと動かずに見詰めていらっしゃいました。

ルセット先生は、部屋に戻ってからも、大きく窓を開けて、ここからでは見えるはずはないのに、ミカン畑の方角を、にっこりと微笑みながら見詰めていらっしゃいました。

ルセット先生を好きになったら、護ら(まもら)なければならないものの規模が、こんなにも大きくなった。
以前の私なら、そんなこと誰かに任せておけばいいって思ってたに違いない。
自分の中のことだけで精一杯だった。
外を見ようとしたことが無かったから、
外を見ようとしても、うまく見ることができなかったから、
自分の中のことだけで精一杯だと思い込んでた。
だけど今は……、
今は、ルセット先生と一緒になら、少しは外を見られるんじゃないかと思える。
ルセット先生と一緒になら、私を私の中に閉じ込めてしまう何かから、抜け出せるんじゃないかと思える。
外を見たいと思う。
抜け出したいと思う。

サラの日記154(新学期が始まりました。)

銀菓神暦2015年9月7日

新学期が始まりました。
ルセット先生とは一緒に行きました。
ただし、まだ誰も来ていない早朝に。

当初の担当教官はルセット先生だったので、本来ならルセット先生の研究室に行くところなのですが、
メランジェ先生の計らいで、メランジェ研究室に行きました。

研究室のメンバーがそろうと、メランジェ先生が話を始められました。
「さて、皆さんは、この夏休み中に色々な報道や噂を耳にされていると思いますが、銀菓神使法や学則には触れないものです。銀菓神局からも、本学学長からも、これまで通り本学に籍を置くことについて、をきちんと許可を受けられています。また、花綵アグルムの領地問題についても、巷(ちまた)では色々な話が飛び交っていることと思いますが、お二人はきちんと対処中であることを聞いています。本学に籍を置く私たちは、銀菓神使の名のもとに集う(つどう)、ひとつのチームなのですから、お二人に何か困ったことがあれば、できる限り協力するというのが学長のお考えです」
さらに、
「まぁ、簡単に言ってしまえば、複雑な状況に巻き込まれてしまった本学のチームメイトが無事に幸せになれるように、今まで通りみんなで頑張ろうということですよ。複雑な状況の規模が少しばかり大きかっただけでね」
と、にっこりされ、
「そうですよね? サラさん」
と、ウインクしながら こちらを見られました。
どこからともなく拍手が起こり、私はみんなの方に向かって、「どうぞよろしくお願いします」と頭を下げました。
メランジェ先生は、
「さてと、この研究室の皆さんはこれで大丈夫ですね? では、もう一人を救って来ましょうか……」
と、部屋を出て行かれました。
多分ルセット先生のところです。
付いて行くべきか、このまま研究室に居るべきか悩みましたが、研究室のみんなが ぐるっと周りを囲んできたので、ルセット先生のことはメランジェ先生にお任せすることにして、研究室のみんなの興味津々な質問に付き合うことにしました。

ルセット先生とジャックさんが兄弟であることは研究室のみんなは知らなくて、
ということは、ジャックさんはルセット先生と私のことも知らなかったっていう設定になっていて、
ジャックさんがとっても自然に質問してきたりするから、
心の中では大笑いしながら、顔は冷静にしていなきゃならなかったりして、
そんなことばかりを意識していたら、みんなに囲まれていても全然緊張しなかった。

私たちの日程は午前中で終わったのだけど、先生方は今日から通常勤務なので、先に帰ることにしました。
で、ジャックさんと一緒に、研究室でこらえていた分の大笑いを思いっ切り。

「サラちゃん、結構女優じゃん」
「ベテラン俳優のジャックさんの技を盗んだの」

サラの日記153(本当の浮気はしたことがないから、ただの想像だけど……。)

銀菓神暦2015年9月6日

夏休み最終日。
明日からの準備、大丈夫だったっけ……と思いながらも、いつもと変わらない過ごし方をしてしまいました。
まあ、最初から授業がびっちりあるわけじゃないから大丈夫か……。

栗色の髪の女の子、いつ来るのかな……。
取り敢えず、今日、私が工房に居る間には来なかった。
日の出前の早朝にしか工房に居ないなんて、タイミング合わないよね。
でも、いつもと違う時間に工房に出掛けたら、ルセット先生に あれこれ聞かれるよね、きっと。
向こうから来てくれるのを待つしかないか……。
ルセット先生に隠してるのって、相手は女の子なのに、浮気してる気分。
本当の浮気はしたことがないから、ただの想像だけど……。

ルセット先生には……、
その子に会えたら報告しよう。

本当は……、
本当は、明日から大学院に行かなければならないこと、とっても緊張してる。
1番最初に顔を合わせるの誰だろうとか、
婚約のことには触れて欲しくないとか、
何か聞かれたらどう答えようとか、
そんなことばかり考えてしまう。

そんなことを忘れたくて、
栗色の髪の女の子のことの方を考えようとしてる。

だけど、
私なんかよりも、ルセット先生の方が大変なんだろうな……。
なのに、ルセット先生は、今日もいつもと変わらず穏やかで、一緒に居ると安心する。
私を見付けてくれて ありがとう って思う。

サラの日記152(このジャムを炊くことのできる職人を探している)

銀菓神暦2015年9月5日

朝、実家の工房で作業していたら、母に呼ばれました。
昨日の夕方、栗色の髪の女の子がやって来て、この店のジャムを炊いている職人に会いたいという申し出があったそうです。
何か不手際があったのかとたずねてみると、不手際ではなくて、このジャムを炊くことのできる職人を探しているとのことだったそうです。
母は、ジャムは見習いの職人が炊いていて、早朝にしか工房に居ないと答えると、また日を改めて来ると言われたそうです。
ジャックさんの力になろうと思って、私の方が栗色の髪の女の子を捜していたつもりなのに、私も栗色の髪の女の子に探されていたようです。
本当はすぐにでもルセット先生に話したいぐらい嬉しいできごとだったのですが、ジャックさんのことが絡んでいるので、まだルセット先生には話していません。

ルセット先生は、実家の工房での仕事が終わったあとは、ずっと自室の机に向かっていらっしゃいました。
新学期の準備が大詰めなのだそうです。
私は、ルセット先生の隣りで、ルセット先生のじゃまにならないように、メランジェ先生に頂いた食用植物の図鑑を広げていましたが、頭の中は栗色の髪の女の子のことでいっぱいでした。
もちろん、そのことをルセット先生に読まれないように気を付けながら……。

だけど……。
「サラ。なんかいいことあった?」
って、ルセット先生に聞かれてしまいました。
「ん? ううん、別に。あ、この図鑑が面白くて……」
って、ごまかした。

ルセット先生が意識をブロックしている時の感覚は分かるけど、自分がブロックしている時にどうなってるのかは、自分では確認のしようがない。
もしかしたら、ちゃんとブロックできてなくて、ルセット先生には読めちゃってるのかもしれない。
まあ、ルセット先生にばれちゃったら、それはそれで別にいい。
ばれちゃった方が楽かも……。
だけど、ルセット先生はそれ以上は何も聞かずに、ただ穏やかに にっこりして、また机の書類に戻られました。
ルセット先生と一緒に何かするのも楽しくて幸せだけど、
こうやってだた隣りに居て、それぞれのことをしているのも……なんかいい。

サラの日記151(銀菓神使スーツを着装して、ちょっと お隣りの衛星の五次元時空間まで。)

銀菓神暦2015年9月4日

夏休み最後のメランジェ先生の仮称号対策。

銀菓神使スーツを着装して、ちょっと お隣りの衛星の五次元時空間まで。
つまり、月の五次元時空間まで。

これはルセット先生とも行ったことが無い。
メランジェ先生の付き添いもありませんでした。
単独で初めての場所に行く練習。
着いたら証拠写真を撮って、戻って来て、メランジェ先生に見てもらって終了。

行かなきゃしょうがないから行ったけど、
怖いし、不安だし、
滞在時間は5分より短かったかも……。

メランジェ先生は、
「行けたのには違いないから大丈夫ですよ」
って、優しく微笑んでくださいました。

帰宅後、その話をルセット先生にしたら、げらげら笑われちゃいました。
ルセット先生が初めて月の五次元時空間に行った時は、楽しくてしょうがなくて、1時間ぐらい遊んで帰って来たって。
なかなか帰って来ないから、逆にメランジェ先生が心配して待っていらっしゃったって。

でも、本当に怖かった。
くぐった鳥居の向こう側には、支局の小さな建物が ぽつんとあるのしか見えなくて、
しかも、その建物の中に誰か居るような気配は無いし……。
その場を離れたら帰り道の鳥居を見失ってしまいそうで、1時間ぐらい遊ぶなんてとんでもない。
私、銀菓神使の称号が取れても、地球外に派遣されるのは嫌だな……。

メランジェ先生の仮称号対策の最後に、こんな大きな試練が待っているとは知りませんでした。
ルセット先生からも聞いたことがありませんでした。
今日、その大きな試練を取り敢えず乗り越えた私に、ルセット先生が教えてくださいました。
「『月行き』はメランジェ研究室の影の名物行事なんだ。ほかの研究室では、『月行き』みたいに無謀なことはさせてないみたい。ジャックには絶対に内緒だよ」
もちろんジャックさんには言いません。
ジャックさんがどんな『月行き』をするのかが楽しみです。

アロゼの休憩室15「学校が始まりましたね(^^)/」

小中学生の皆さんは学校が始まりましたね。
そのほかの学生の皆さんも、そろそろ学校でしょうか……。

現在小学生の娘を子育て中の私は、
普段よりも夏休み中の方が何かと忙しくて、
『サラの日記』の執筆も、夏休み中のどさくさにまぎれて滞って(とどこおって)しまうんじゃないかと心配していましたが、
どうにかこうにか1日もお休みすることなく更新できました。

そして、(私にとっては)穏やかな日常が戻って来ました。

さて、150話に書いたサラちゃんの気持ち。当時の私の気持ちをもとにしたものです。
それでなくても(事情を知らない第三者の目から見て)普通に会話できるように頑張っているところなのに、
それで精一杯なのに、
それ以上のことを次々に要求されても、
消化しきれないどころか、反発心まで出てきてしまいます。
さらに、その反発心も上手に外に表現できないわけですから、
心の中のミキサーで色んな気持ちのミックスジュースができあがり、それがまた、なんとも美味しくないんです。
美味しくないだけならいいのですが、苦しくなる。
もう、ある種の毒です。

ルセット先生とサラちゃんのように、「意識の結合」とかっていうのができて、
相手が自分の気持ちを悟ってくれたりすることができれば楽なんだろうけど……。